国民に必要な医療の現状分析は十分にされたのか?
今回の診療報酬改定を読み解く

上尾市  小橋 一成
総枠で1.19%のマイナス改定
 今回の診療報酬改定率は、医療本体を0.55%引き上げる一方、薬価・材料価格で1.45%引き下げられた。その他、薬価制度抜本改革(別枠)0.29%の引き下げを含めると、総枠で1.19%のマイナスとなった。
 マイナス要因の一つとして、薬価の引き下げ分を本体に充当していないことが大きい。財務省の「薬価改定は診療報酬本体の財源とは成り得ない」の方針に基づくもので「大幅な改悪」と評価せざるを得ない。
 診療報酬改定率は、今回も財務省主導で行われた。その視点は、国からの国民医療費支出抑制である。財務省は、団塊世代がすべて75歳以上となる2025年問題、つまり、医療並びに介護に膨大なる出費が必要となることを口実にしている。
 本当にそうであろうか?今まで政府が行ってきた医療費予測推移に対する実態は、度重なるマイナス改定、我々医療関係者の非常な努力等の結果、増加予測を下回ってきている。中には大幅に下回った年もあった。このことの詳細な分析はないままである。

入院から地域包括への移行
 今改定のキーワードは、入院より在宅(地域医療)への推進と「かかりつけ医」機能の評価である。
 国は在宅での看取り、特に終末期ケアについて、入院医療費に比べて、自宅での看取りは大幅に安いとの認識がされている。
 それは、小泉政権時代、2005年の社会保障審議会医療保険部会で出された極めて例外的なモデルで行われた机上の計算で算出された資料による。この考えが現在に至るまで貫かれている。
 しかし、このモデル設定はがん末期の患者に対して、入院(入院料、抗がん剤、人工呼吸使用の出来高算定)と在宅末期医療総合診療料(訪問診療、処置、薬剤料等全て包括)を比べており、介護費用等は含んでいなかった。また、在宅の場合には、家族による介護も含んでいないことが抑制効果の一つであることもわかっている。
 この家族介護のインフォーマルサービス(目に見えてこない肉体的・精神的負担)についても詳細に調べるべきだ。公的費用ばかり見ていると、家族には表に出ない一層のしわ寄せを強いられることになる。

新設加算で「かかりつけ医」へ誘導
 地域における患者の受け入れ機能の強化をはかる目的で、「かかりつけ医」に関連する点数を広げた。
 例えば、地域包括診療加算は、365日24時間体制を引き、常勤医2名が原則であったが、常勤医師数を緩和、多数の連携でもって補おうという考えである。また、地域包括診療加算等を届け出ている医療機関の初診料に「機能強化加算」が新設された。
 医師の働き方改革や長時間労働の見直しについて考えている時に、全く時代に逆行するものである。医療機関の連携といっても、それぞれあまりにも治療方針・医療レベルの異なる医療機関の連携は、かえって混乱を招くことになり、医療現場を知らない机上の空論である。

今回の診療報酬改定について思うこと
 国民に必要な医療の現状分析は十分されていたのか?
 今回の改定もいかに公的医療費の支出を減らすかが目的としか考えられない。中医協では、診療報酬改定結果検証部会の調査結果や、医療経済実態調査について議論はしているが、先の在宅医療費の試算資料の例から、議論する資料の整合性含め検証が必要ではないか。議論した形跡はあるものの、これだけ大切な医療・介護の問題について、これまでの改定経緯をみても検討する時間は絶対的に少ない。
 診療報酬改定の医療関係者、国民から直接聞き取りを行うパブリックコメントも一貫してわずか1週間であり、通過儀礼となっている。

最後に
 今回の改定は、現在の医療の中で、最優先すべきものは何かと言うことが議論されていない。中でも、入院患者を地域医療でみるその体制に、何が必要かという分析はされていないように見える。
 ひとつ言えるのは、医療関係者・国民患者に更なるインフォーマルサービスを強いるものだということである。
 事実に基づいた分析を行い、必要な医療の供給という観点から改定が行われない限り、点数をいくら触っても現状の厳しい医療環境の改善や国民、医療関係者の将来への不安はぬぐえない。

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