論壇
抗菌薬の適正使用は診療報酬で推進すべき事項なのか
久喜市 青木 博美
アクションプラン
ペニシリンを発見したアレキサンダー・フレミングが一九四五年ノーベル賞受賞スピーチで予見したように、薬剤耐性菌が増加し世界的な問題となってきている。このままでは将来の感染症治療が難しくなってしまう。このような危機感から、世界保健機構(WHO)は2015年の世界保健総会で「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」が採択し、加盟国に対して2年以内に自国のアクションプランを策定するよう要請した。
日本では、2016年に「薬剤耐性アクションプラン2016-2020」が取りまとめられ、抗微生物薬の適正使用:抗菌薬使用は、2013年水準の3分の2に減少、セファロスポリン系薬剤、NQ系薬剤、マクロライド系薬剤を2分の1に減少することを目標としている。
今回の診療報酬改定では、アクションプランを実現するために抗菌薬の適正使用について、一部の点数に「『抗微生物薬適正使用の手引き』を参考に、抗菌薬の適正な使用の普及啓発に資する取組を
行っている」ことが要件となり、その加算点数が小児科外来診療料と小児かかりつけ診療料等に追加された。
現在問題となっている主な多剤耐性菌
MRSA、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、ESBL産生菌、AmpCβラクタマーゼ産生菌、メタロβラックタマーゼ産生菌、多剤耐性アシネトバクター、などがある。
MRSA、ESBL産生菌は外来でも頻度が増えてきている。当院でも入院、外来を含めての調査ではあるが、黄色ブドウ球菌、大腸菌、クレブシェラの薬半数が耐性化している。急性腎盂腎炎の治療をエンピリックに始めようとした場合、ESBLを考えて薬剤を選択しなければならない状況となっている。
外来で問題視されている不適切使用
外来診療においては、急性上気道炎、気管支炎でのセフェム系薬剤、マクロライド系薬剤が問題視されている。セフェム系薬剤は、AMPC(アモキシリン)に比べて臨床的有用性が低いのに多く使用されている。マクロライド系薬剤は既に耐性化が進んでしまっている。
急性下痢症には抗菌剤が不要な下痢に対して、温存して使用すべきであるとされているNQ系薬剤が多く使用されている。
良くできている抗微生物薬適正使用の指針-是非、参考にすべき
厚労省より「抗微生物薬適正使用の手引き」第一版が出されている。総論に続いて、疾患としては、急性上気道炎、急性下痢症が取り上げられている。外来診療でのポピュラーな疾患であり、抗菌薬使用量が多く、しかも抗菌薬の必要が多くない疾患としてこの2疾患が取り上げられている。
エビデンスに基づいて、良くまとまっている。「念のため」の抗菌薬投与は意味がなく、副作用と耐性菌を増やすだけであることについても、「抗菌薬の延期処方(経過をみて思わしくない場合に抗菌薬を投与)」の解説で紹介してある。参考文献も記載してあるので元文献にあたることもできる。
適正使用は診療報酬で推進すべき事項なのか?
診断、それに基づいた治療方針を立てて治療していく。診断が確定できない場合もあり、迷いながら治療を進めていく場合もある。患者さんのリスク因子も考慮して、良いと思う治療を行っていく。抗菌薬も当然、必要と考える場合に使用を行っていく。不必要の場合は患者さん、家族に説明する。普通の診療である。
しかし、現状では過剰使用となっていることは否めないが、本来は抗菌薬使用についてのレベルアップを行うことで解決すべき事項ではないか。診療報酬で推進しようとしていることに何か釈然としないものを感じる。皆さんはどうお考えでしょう。
ペニシリンを発見したアレキサンダー・フレミングが一九四五年ノーベル賞受賞スピーチで予見したように、薬剤耐性菌が増加し世界的な問題となってきている。このままでは将来の感染症治療が難しくなってしまう。このような危機感から、世界保健機構(WHO)は2015年の世界保健総会で「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」が採択し、加盟国に対して2年以内に自国のアクションプランを策定するよう要請した。
日本では、2016年に「薬剤耐性アクションプラン2016-2020」が取りまとめられ、抗微生物薬の適正使用:抗菌薬使用は、2013年水準の3分の2に減少、セファロスポリン系薬剤、NQ系薬剤、マクロライド系薬剤を2分の1に減少することを目標としている。
今回の診療報酬改定では、アクションプランを実現するために抗菌薬の適正使用について、一部の点数に「『抗微生物薬適正使用の手引き』を参考に、抗菌薬の適正な使用の普及啓発に資する取組を
行っている」ことが要件となり、その加算点数が小児科外来診療料と小児かかりつけ診療料等に追加された。
現在問題となっている主な多剤耐性菌
MRSA、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、ESBL産生菌、AmpCβラクタマーゼ産生菌、メタロβラックタマーゼ産生菌、多剤耐性アシネトバクター、などがある。
MRSA、ESBL産生菌は外来でも頻度が増えてきている。当院でも入院、外来を含めての調査ではあるが、黄色ブドウ球菌、大腸菌、クレブシェラの薬半数が耐性化している。急性腎盂腎炎の治療をエンピリックに始めようとした場合、ESBLを考えて薬剤を選択しなければならない状況となっている。
外来で問題視されている不適切使用
外来診療においては、急性上気道炎、気管支炎でのセフェム系薬剤、マクロライド系薬剤が問題視されている。セフェム系薬剤は、AMPC(アモキシリン)に比べて臨床的有用性が低いのに多く使用されている。マクロライド系薬剤は既に耐性化が進んでしまっている。
急性下痢症には抗菌剤が不要な下痢に対して、温存して使用すべきであるとされているNQ系薬剤が多く使用されている。
良くできている抗微生物薬適正使用の指針-是非、参考にすべき
厚労省より「抗微生物薬適正使用の手引き」第一版が出されている。総論に続いて、疾患としては、急性上気道炎、急性下痢症が取り上げられている。外来診療でのポピュラーな疾患であり、抗菌薬使用量が多く、しかも抗菌薬の必要が多くない疾患としてこの2疾患が取り上げられている。
エビデンスに基づいて、良くまとまっている。「念のため」の抗菌薬投与は意味がなく、副作用と耐性菌を増やすだけであることについても、「抗菌薬の延期処方(経過をみて思わしくない場合に抗菌薬を投与)」の解説で紹介してある。参考文献も記載してあるので元文献にあたることもできる。
適正使用は診療報酬で推進すべき事項なのか?
診断、それに基づいた治療方針を立てて治療していく。診断が確定できない場合もあり、迷いながら治療を進めていく場合もある。患者さんのリスク因子も考慮して、良いと思う治療を行っていく。抗菌薬も当然、必要と考える場合に使用を行っていく。不必要の場合は患者さん、家族に説明する。普通の診療である。
しかし、現状では過剰使用となっていることは否めないが、本来は抗菌薬使用についてのレベルアップを行うことで解決すべき事項ではないか。診療報酬で推進しようとしていることに何か釈然としないものを感じる。皆さんはどうお考えでしょう。