論壇

歯科医師のリタイアと過剰緩和の現状を考える

戸田市  穴井 恭市
 厚労省が2年に1度実施している医師、歯科医師届出の案内が来た。前回2016年調査結果を見てみると歯科医師の数は10万4533人、そのうち歯科診療所に従事する人数は8万9166人。一番多い年齢層は50から59歳の2万4049人、70歳以上は7713人だった。
 上記調査で、歯科診療所開設者の平均年齢は56.6歳。10年前の2006年は52.6歳だったので4歳あがっている。私は現在53歳で平均年齢以下にあるが、今年になり60歳後半から70歳の地元歯科開業医が5件ほど閉院したため、高齢化による閉院の時期について考える機会となった。
 歯科医師の仕事は細かい作業が要求されるため、年齢とともに、最初に当たる壁が老眼である。老眼鏡の度数も日々強くしながら作業クオリティを下げまいと格闘し診療に当たっている。もっと年齢がいくと手先がうまく機能しなくなり、さらに持病の肩こり、腰痛などに耐えられなくなり引退を考えるようになるのだと思う。
 新卒の頃は、開業すれば定年がないので食いっぱぐれることはないと思っていた。老いにより診療に支障をきたすことや、ましてや歯科医院過剰状態が来ることなどまったく考えていなかった。
 もうひとつデータがある。厚労省が歯科診療所開設者数の推移で、2014年に出した予測では50~59歳の歯科医師数が2万1115人、40~49歳は1万3826人で、50歳代をピークに10年後には30歳代が4052人まで減少するというものだ。開設者数をみると、前回の2016年調査でも同様の傾向となっていると思われる。
 私は2009年の本紙論壇でコンビニより多い歯科医院過剰時代到来の問題について書いた。歯科医師過剰問題に関して、国が歯科医師削減対応処置をとってきている。
 文科省のデータによると、歯学部入学定員が2018年度は1985年度と比較して、26.6%減少している。国家試験の合格者も2001年の約3000人をピークに、2014年からは2000人で推移している。私立大学では、このため9割近くあった合格率が2014年ぐらいから60%に落ち込み、これに対して国家試験合格率を下げまいとして受験者を減らしていると思えるところも存在している。
 厳しい国家試験を突破した歯科医師が増える半面、留年生や国試浪人が増加していく問題も起きている。国は、加えて歯科医師の高齢化による引退が増加することで歯科医師数が徐々に減少し、過剰時代の終わりが来ると予測している。
 それを表しているのが厚労省の2016年度医療施設数の動態状況である。歯科診療所の廃止・休止は1548件で、歯科診療所は6万8940件。2009年に6万8097件となってから、7年で940件しか増えていない。
 また、国は医療費削減に躍起になっており、廃止理由のひとつに、保険診療だけでは倒産に追い込まれるところもでてきた。2018年5月の東京商工リサーチのレポートでは2017年度(4月から3月)の倒産件数は20件で、負債額が1億円の小規模な歯科医院が多かった。その要因として、低い診療報酬、患者数が人口減により着実に減少をたどる中、患者数を見込める人口の多い首都圏や利便性の高い駅前などでの歯科医院間の患者争奪戦、さらに、歯科衛生士、事務スタッフなどの人手確保へのコスト上昇があると指摘している。
 このような状況を見ると、国が歯科医師過剰時代の終わりと確定した時、今度は歯科医院不足になり再び歯科診療所に長蛇の列ができるかもしれない。
 私が歯科医師として折り返し地点に近づいた今、リタイアしてもある程度の蓄えができており、老後を楽しむために何をしたらよいか。自身の健康管理、蓄えができるくらいの歯科診療報酬の引き上げ、地域の歯科医療のことなど、やるべきことがたくさんある。
 また、このような厳しい状況下でも歯科医師を目指す後輩たちへ繋ぐ歯科医療の未来も考えていかないといけない。

Copyright © hokeni kyoukai. All rights reserved.

〒330-0074 埼玉県さいたま市浦和区北浦和4-2-2アンリツビル5F TEL:048-824-7130 FAX:048-824-7547