論壇

「遺伝子パネル検査」の承認でがん医療は変わる

川口市 石津 英喜
 その年を「なんとか元年」と呼ぶことがあるが、私の勝手な命名で2019年を「遺伝子パネル検査元年」と名付けたい。
 2018年12月に厚生労働省薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会にて、2つの遺伝子パネル検査が了承された。これにより早ければ2019年春に保険適応となる可能性があるという。遺伝子パネル検査とは、がん組織の遺伝子の異常を次世代シークエンサーを用いて検査するものである。
 どのような遺伝子の異常を持っているがんなのか、数百の遺伝子の異常を一度に調べることができ、従来から伝統的に行われてきている病理組織診断に加えて、患部から採取された検体から遺伝子検査が施行される。
 保険適応とされる場合の条件は、実施できる医療機関をがんゲノム医療中核拠点病院(11施設)・がんゲノム医療連携病院(135施設)に限定し、対象患者は原発不明がん、標準治療のない希少がん、標準治療が終了または終了が見込まれる固形がんで日常生活に支障のない患者とのことである。全がん患者の最大1%、具体的には年間4000~6000人程度が対象だそうである。
 遺伝子パネル検査は、現在自費では70万円程度であるが、今後数年もすれば確実に値段は安くなり、保険適応も拡大されて従来の病理診断にとって代わる、より正確な診断技術として定着していくだろう。
 これまでのがん治療は、発症臓器及び組織型(たとえば胃の腺がん、肺の扁平上皮がんなど)に基づく分類をもとに治療法の選択がされてきたが、近年の研究により同じ臓器のがんであってもその遺伝子の異常は個々の患者ごとに異なることが判ってきた。がんの治療には遺伝子の異常の検索が必要にされるようになってきている。
 従来の抗がん剤といえば、がん細胞だけでなく全身の正常細胞にも少なからずダメージを与えてしまい副作用が多かったが、近年は、がん細胞の増殖にかかわる特定の分子だけを狙い撃ちできる分子標的治療薬が登場してきている。
 例えば転移性乳がん治療薬「ハーセプチン」、B細胞性非ホジキンリンパ腫治療薬「リツキサン」、慢性骨髄性白血病治療薬「グリベック」、非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」などである。いずれも該当する疾患にはなくてはならない治療薬となっている。スーパーレスポンダーといって進行がんが嘘のように消えてしまったような非常によく効く症例が存在する。
 副作用がまったくないわけではないが、従来のがんの治療薬に比べると患者さんの負担が少ないといわれている。いまや従来の病理診断のみでは治療についての情報は足りない。どのような遺伝子異常があるがんなのか、ゲノム情報に基づいた最適な治療法の選択ができるようになれば、個々のがん患者に対して「効果の低い治療法を避け、効果の高い最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、治療成績の向上、患者の身体的経済的負担の軽減、医療費の軽減につながる。
 高額医療費が医療費はおろか日本経済を破壊しかねないなどとの話題があるが、近い将来には高額医薬品を使用する適応は遺伝子診断を用いて厳格に限定することが可能になるであろう。
 高額医療薬の売込みには各社非常に熱心であるが、売れるほど会社が儲かり、株価が上がるなどバカげた現実から、冷静に適応症例を絞って使用する、一定以上売れた時点で薬価が自動で下がる、治療効果があった場合のみ薬剤費が支払われるなどの手法も可能ではないかと考える。

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