大規模災害時に行われるトリアージの法的整備を急げ!

戸田市 福田 純
 昨年の日本を表す漢字に“災”が選ばれる程、昨年は例年以上災害が駆け巡った。
 2月の北陸豪雪に始まり火山の噴火・地震・梅雨前線の活性化による豪雨・猛暑・幾つもの台風上陸等々である。このような自然災害に対して、事前の準備の大切さが叫ばれている。
 我々医療人は個々人が行う日常生活上の備えに加え、地域医療を住民に提供する使命がある点これらへの準備も欠かせない。災害の種類や規模により、それらへの対応は大きく異なるが、考えうるあらゆる場面を想定し、予算の許す限り準備する必要がある。
 大規模災害時の医療資源(人・医薬品・備品等)の提供が、急激に増加した負傷者に追い付かない。時に停電や水没により、普段使える医療機器も使えない事態も起こりうる。こんな状況下で、一度に沢山の死傷者が出て、一人でも大勢の人を救命する必要がある場面では、何よりも迅速性が求められ、救急活動に優先順位を設けざるを得なくなる。いわゆる“トリアージ”であり、その重要性は高まっている。
 チーム医療の一環として行われるこのトリアージは迅速性と正確性の相反する要因が求められるが、初めてトリアージを経験する一般開業医にとって、志はあっても容易ではない業務である。また、普段から役割分担を決めておいたり、トリアージの実地訓練をしておく必要もある。災害当日、参加できない担当者も出てくるであろうから、出来るだけ複線化した救命系路が必要である。
 医療資源が乏しい中で、救急処置の必要な人に速やかに治療行為が始められるようにするため、医療提供を必要としない人や重軽傷者を短時間で分けるのがポイントである。
 防ぎえた外傷死(PreventableTrauma Death:PTD)を防ぐため、救命処置に必用な被災直後、最初の一時間Golden hourを徒に費やしたくない。このため、トリアージは傷病者一人当たり、長くとも30秒以内に抑える事が求められる。
 多くの負傷者は初対面で、持病も治療歴も不明であり、瞬時に重症度を決めかねる場合も多いであろうが、ためらっている時間は許されない。
 一般にトリアージには70%以上適切な判断であれば「適正なトリアージ」と評価されている。然しながら、少なからず発生した10~30%の過誤につき医療者が後々、民事及び刑事の責任を取らされる事があるのだろうか?
 災害時に善意で行った行為に対して「訴えられない」はず、との思い込みもあろう。事実、アメリカなどでは、「善きサマリア人の法」との考え方があり、特別な悪意や重大な過失がない限り「不問に付す」とする国や地域がある。
 だが日本では民事及び刑事に於いて、救急医療の現場であっても平時の法解釈がなされ、その時の医療水準に従って過失責任を問われることになる。刑が軽減されることもないという理不尽さが残る。
 判断する時間的猶予もなく、過酷な条件下で行った救命行為は「やらなければ良かった。二度と災害救助活動はすまい」と思ってしまうこともあろう。これでは医療者の多くは参加に消極的にならざるを得なくなる。
 そうならないために、災害医療現場での善意が報われ、安心して自発的にトリアージ等の救助活動に参加できるよう、法的整備を整える必要がある。

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