論壇

医療政策・行政の問題を素早くキャッチし、草の根運動を起こそう

春日部市  渡部 義弘
 診療報酬改定から一年が経過した。例によって見切り発車の歪みが現場に不要なストレッサーをもたらしている。医療の現場も社会動向の影響を受ける点で、特別な存在ではない。事例を基に我々医療者に何が求められているかを私見を交えて考察したい。

Ⅰ.SNSと医療
 平成時代に急速に導入されたIT(ICT)。パソコン・スマートフォンの普及は、何時でも何処でも誰でもがテレビ・新聞など既存のマスメディアに勝る情報発信源になり得る状況を生み出した。
 特徴的な二つの問題で考えてみる。
 ①妊婦加算。ある妊婦が非産婦人科診療所を受診し、突然窓口で妊婦だから加算が発生すると言われて、その場でSNSに理不尽さを吐露したのが発端となった。
  それ以降「妊婦税」「少子化対策に逆行」とネット上で沸騰、感情的な負担増感のみが一人歩きし、妊婦特有のリスクに対応する配慮という妊婦加算の趣旨が十分確認されぬまま、一国会議員のパフォーマンスで、中医協を経ずに凍結へと追いやられた。
 ②外用保湿剤(ヒルドイド)。
  以前から、ヒルドイドは下手な化粧品より肌に良い、医療機関に行けば保険診療で安く手に入ると、SNSに写真入りで紹介されていた。筆者は皮膚科医であるので特に気になっていた。
 中医協委員の健保連理事がこれを問題視し、「皮脂欠乏症=美容目的使用」と断定。保険外しは失敗したが、使用に制限を加えることには成功した。患者の発したSNS情報→便乗→規制・凍結の流れが作られつつあることに危機感を持ちたい。
 エビデンスに基づき、理論的に反論していくためには、団体の声明・抗議に加えて、医療関係者が個人レベルで問題意識を共有し、患者を啓蒙し、SNSでミスリードさせないことも必要だ。

Ⅱ.財政と医療
 数十年にわたる「医療亡国論」に根拠を置く財政改革。小泉政権より顕著に見られた医療費自然増の人為的圧縮は、安倍政権に入り常態化した。むろん社会保障のためだけに財政全体のバランスを無視するわけにはいかないが、医療人としては見せかけだけの経済指標改善を目指した結果、社会保障が圧迫され、先進国の中では断然高い貧困率も相まって受診抑制や、死に至る医療難民が増加していることは看過できない。かつてよく使われた、「富める者が富めば、貧しい者にも自然と富が滴り落ちる」トリクルダウンは起こるはずもなく、格差社会は悪化の一途だ。
 診療報酬実質マイナス改定や、地域医療構想などの医療費削減政策により医療機関の収支は悪化。安定した運営なくして、良い医療の供給はおぼつかない。政府・行政の種々の改悪に対し、患者に一緒に考えてもらうような草の根運動を起こしていきたい。

Ⅲ.歯科初再診料の施設基準
 歯科の初再診料に、施設基準を持ち込み、一物二価の状況になったことは記憶に新しい。医科には関係ないと考える向きもあるが、厚労省の言うところの「かかりつけ医」を考えてみる。
 現在、患者が「かかりつけ医」ではない診療所を受診した場合、プラスαの保険外支払いが検討されている。極論を言えば、所在地域や医科の標榜科間での初・再診料の差別化への端緒となる可能性を考えるくらい歯科初再診料への施設基準導入は重大な問題なのではなかったか。
 今からでも遅くはない。歯科だけの問題とせず、早急に解消させる取組が必要だろう。

Ⅳ.マイナンバー
 マイナンバーカードと被保険者証の一体化が、2021年に迫っている。ご親切にも、オンライン資格確認で必要なカードリーダーなどの導入に、今年10月1日付けで、「医療情報化支援基金」(予算案300億円)まで用意されている。よくある「今すぐキャンペーン」で誘導する算段だろう。
 そもそもマイナンバー制度の危険性は語り尽くされており、この制度の廃止に向けて、医療者が逆行しないよう残り少ない時間で反論していかなければならない。

Ⅴ.終わりに
 原発事故に見る、許容線量の日本独自の変更など、問題は他にも山積している。
 医療に直接影響が無いように見える事案でも、いずれ形を変えて自らまたは自らの患者に降りかかって来る可能性を想像し、医療環境を悪化させる市民社会の動き、立法・行政の動きに敏感でありたい。そして医療人として協働し、問題に対し毅然と立ち向かうことが望まれる。

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