論壇
歯科医師が高齢化社会の救世主となるために
戸田市 穴井 恭市
厚生省(当時)と日本歯科医師会が「80歳になっても20本以上歯を残して健康な生活を」と推進している8020運動は、今年で30年となる。厚労省が実施する2016年度の歯科疾患実態調査の結果によると、8020達成者(80歳で20本以上の歯が残っている人の割合)は51.2%であり、前回2011年の調査結果40.2%から増加している。
自分の歯でよく噛める人はしっかりと食いしばることができるため、全身の筋肉との連携がうまくでき、身体的にも自立することができる。咀嚼(噛む) する事で脳の血流が良くなり脳神経細胞の萎縮の予防にもなる。また、歯がなくても、義歯の使用状況が良好であれば、同様の効果があるといわれている。特殊な例ではあるが、100歳を過ぎても元気な双子の姉妹でご長寿アイドルとなった「きんさんぎんさん」のように歯がなくても咀嚼することができ、しっかり自立しているケースもある。
認知症と歯周病の関係
筆者が本紙で連載している「空穴来風」の本年5月号で紹介した「認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!」にもあったが、口腔内の状況と認知症とは深い関わりがあることがわかってきた。
認知症は特別な病気ではなく、高齢になれば誰にでも発症する身近な病変である。内閣府の2017年版高齢社会白書によると、2012年は認知症高齢者数462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15%)であったが、2025年には、約5人に1人になるとの推計もあると報告されている。
歯周病は、歯周病菌の感染により、歯の1本1本の噛み合わせのバランス、噛む力に対する歯周組織の耐久性、歯ぎしり等様々な状況が絡み合い惹起されて、歯を失う原因となっている。今や歯を失う原因の第1位は虫歯ではなく歯周病である。
2017年11月、名古屋市立大学・道川誠教授と、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター・松下健二部長が「マウスモデルにおいて歯周病菌の感染によって惹起した歯周病はアルツハイマー病の病態を増悪させる」論文を、世界に発表した。
歯周病が認知症の原因の多くを占めるアルツハイマー型認知症(以下「AD」)を悪化させるという動物実験の結果である。アルツハイマー病モデルマウスを2グループに分けて、一方を歯周病菌に感染させる。4カ月後にマウスの脳を比較すると、記憶力に関係する脳の「海馬」にADの原因となるタンパク質(アミロイドベータ、以下「Aβ」)が増えたが、歯周病に感染させたグループのマウスのAβは面積で約2.5倍、量で約1.5倍多くなっていた。
道川教授らは、これまで歯周病とADの関係は科学的に研究されておらず「歯周病をコントロールすることで、認知症の発生時期を遅らせ、発症後の重症化を軽減させることができる可能性が出てきた」とまとめている。
また、マウスに歯周病の原因菌として一番有力なポルフィロモナス・ジンジバリス菌(P・g菌)がもつ毒素(LPS)を注入するとAβが溜まりやすくなるとの実験結果もある。これは、ヒトでの調査でも見逃せない結果が出ている。2019年1月、米ルイビン大学のヤン・ポテンパ博士らの研究チームは、「慢性歯周炎の原因細菌であるP・g菌がアルツハイマー病患者の脳内で確認された」という研究論文を公開した。
口腔内が汚れていると食欲がなくなり脳血流も悪くなる。それに加えて歯周病原因毒素LPSがADの脳萎縮の原因物質Aβを増加させる悪循環となる。
歯周病は歯磨きだけでは予防不可能な疾患である。定期的に口腔内のプロフェッショナルな清掃、歯石除去、噛み合わせのバランス、歯の動揺や歯周炎(出血や腫れ、膿)の度合等のチェックと処置は、歯を失わないためには不可欠である。そういう意味では高血圧症や糖尿病のように慢性疾患と考え定期的に管理する必要がある。
我々歯科医師は高齢化社会に向かって国民の口腔内を健康に保つことで、寝たきりや認知症予防の一端を担っている。歯周病管理、口腔ケアに関する報酬の評価が必要だ。
自分の歯でよく噛める人はしっかりと食いしばることができるため、全身の筋肉との連携がうまくでき、身体的にも自立することができる。咀嚼(噛む) する事で脳の血流が良くなり脳神経細胞の萎縮の予防にもなる。また、歯がなくても、義歯の使用状況が良好であれば、同様の効果があるといわれている。特殊な例ではあるが、100歳を過ぎても元気な双子の姉妹でご長寿アイドルとなった「きんさんぎんさん」のように歯がなくても咀嚼することができ、しっかり自立しているケースもある。
認知症と歯周病の関係
筆者が本紙で連載している「空穴来風」の本年5月号で紹介した「認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!」にもあったが、口腔内の状況と認知症とは深い関わりがあることがわかってきた。
認知症は特別な病気ではなく、高齢になれば誰にでも発症する身近な病変である。内閣府の2017年版高齢社会白書によると、2012年は認知症高齢者数462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15%)であったが、2025年には、約5人に1人になるとの推計もあると報告されている。
歯周病は、歯周病菌の感染により、歯の1本1本の噛み合わせのバランス、噛む力に対する歯周組織の耐久性、歯ぎしり等様々な状況が絡み合い惹起されて、歯を失う原因となっている。今や歯を失う原因の第1位は虫歯ではなく歯周病である。
2017年11月、名古屋市立大学・道川誠教授と、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター・松下健二部長が「マウスモデルにおいて歯周病菌の感染によって惹起した歯周病はアルツハイマー病の病態を増悪させる」論文を、世界に発表した。
歯周病が認知症の原因の多くを占めるアルツハイマー型認知症(以下「AD」)を悪化させるという動物実験の結果である。アルツハイマー病モデルマウスを2グループに分けて、一方を歯周病菌に感染させる。4カ月後にマウスの脳を比較すると、記憶力に関係する脳の「海馬」にADの原因となるタンパク質(アミロイドベータ、以下「Aβ」)が増えたが、歯周病に感染させたグループのマウスのAβは面積で約2.5倍、量で約1.5倍多くなっていた。
道川教授らは、これまで歯周病とADの関係は科学的に研究されておらず「歯周病をコントロールすることで、認知症の発生時期を遅らせ、発症後の重症化を軽減させることができる可能性が出てきた」とまとめている。
また、マウスに歯周病の原因菌として一番有力なポルフィロモナス・ジンジバリス菌(P・g菌)がもつ毒素(LPS)を注入するとAβが溜まりやすくなるとの実験結果もある。これは、ヒトでの調査でも見逃せない結果が出ている。2019年1月、米ルイビン大学のヤン・ポテンパ博士らの研究チームは、「慢性歯周炎の原因細菌であるP・g菌がアルツハイマー病患者の脳内で確認された」という研究論文を公開した。
口腔内が汚れていると食欲がなくなり脳血流も悪くなる。それに加えて歯周病原因毒素LPSがADの脳萎縮の原因物質Aβを増加させる悪循環となる。
歯周病は歯磨きだけでは予防不可能な疾患である。定期的に口腔内のプロフェッショナルな清掃、歯石除去、噛み合わせのバランス、歯の動揺や歯周炎(出血や腫れ、膿)の度合等のチェックと処置は、歯を失わないためには不可欠である。そういう意味では高血圧症や糖尿病のように慢性疾患と考え定期的に管理する必要がある。
我々歯科医師は高齢化社会に向かって国民の口腔内を健康に保つことで、寝たきりや認知症予防の一端を担っている。歯周病管理、口腔ケアに関する報酬の評価が必要だ。