論壇

70歳からの医療費窓口負担2割は正しい政策か?

戸田市 福田 純
 日本の国民医療費は毎年およそ1兆円ずつ増加し続け、2018年度にはついに42.57兆円に達し、国民1人当たりの「年平均医療費」は33.7万円である。後期高齢者の75歳で区分すると75歳以上は93.9万円であるのに対し、75歳未満では22.2万円である。
 国は2018年4月から70歳~75歳未満の窓口負担率を2割にした。現状の窓口負担率は原則69歳未満が3割、70歳以上は2割、75歳以上は1割と年齢に配慮し、一見整合性があるように見受けられるがはたしてそうであろうか?
 窓口での負担率でなく負担額を考えてみよう。75歳未満は年平均22.2万円であるから、3割負担として自己負担額は年間6.6万円である。75歳以上は年平均93.9万円の1割負担で9.4万円、2割負担では18.8万円となり、現役世代のおよそ3倍の負担額となる。2割負担に妥当性があるとは言えない。高齢者ほど入院回数や入院期間が増え、これに伴う生活費への圧迫はより深刻である。70歳以上の高齢者への2割負担は病弱者ゆえに課せられる過酷な「病弱者税」と言え、一種のパワハラ「ビョウハラ」とでも言う〝年齢差別〟の何物でもない。
 75歳以上の方々の平均年収は300万円未満であり、その収入の大部分は年金で占められ、生活費の上限は設定されている。退職後、高齢夫婦2人の老後生活費で平均日常生活費は最低でも月平均22万円、ゆとりある生活費としては35万円が必要とされている。生活費のうち食費が25%を超え最大で、次に交通・通信費が12%を占めるが、高齢になる程医療費は増えるため、窓口負担が2割になれば、自らの医療費を節約せんがため、受診抑制(服薬不履行)が起き、重症化が懸念される。
 「年寄りは外との連絡を絶ち家に閉じこもり、ひっそりとひもじく生活しろ!」とでも言うのだろうか?
 そうされても生きていく上で、医療費の負担増分は、生活費のどこかで工面せざるを得ない。食費・光熱費を節約するか、友人や恩人の葬式へ不義理を承知で参列を控えるか、可愛い孫への誕生日や進学のお祝い、お年玉にも影響がでるかもしれない。これら生活費や交際費、医療費の節約は彼らの生活の潤いを失うだけでなく、健康の質や寿命にも直結する。憲法25条の生存権にも抵触しよう。
 対する、現役世代の多くは勤労世代やその被扶養者であり、医療費の自己負担の持ち出し分は、友人との飲み会を1回控えたり、残業やアルバイトを行うことで充当することも可能であろう。
 1人当たりの生涯医療費は2,700万円であるが、およそ70歳迄に半分、それ以後に残りの半分が費やされる。それだけ高齢になると生活費に占める医療費の割合が多くなることに留意したい。介護費用も高齢になる程、利用額は増す。
 かような状況に置かれている高齢者を標的にした医療費窓口負担の2割増は、到底承服できるものではない。このような現状を国は黙殺し、2020年4月の診療報酬改定に際し、75歳以上にも窓口負担を原則2割に上げようと検討(画策)している。これが実施されると、長寿者ほど健康面の不安に加え経済面の不安が増すことであろう。
 これらのストレスで老後の長命を否定的に生きる、高齢者の恨み節がそこかしこから聞こえてきそうである。「なんでこんなに長生きしてしまったんだろう」、「長生きしたってちっとも良いことなんてありゃしない」と嘆き、ついには「早くお迎えが来ないかなぁ」とも。気の合う仲間たちや孫に囲まれ「長生きもまんざら悪くない」という余生を送れる社会を構築したい。
 現役世代の保険料(厚生年金・介護保険を含めた社会保障費の平均保険料)は30%を超えそうな状況で、今以上の捻出には限界があることは承知している。
 保険料や自己負担金の増額はすでに限界域に達している。残るは公費負担を増やすしかない。軍備品(人殺しの道具)の拡充費用に回す分を、日本人の、より良い生活のため・命のために、税金を使ってもらいたいものである。国家は国民の生命と財産を守る義務があるのだから…。

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