在宅医療点数簡素化ならず 簡素化と合理化の重要性を訴える

川越市  柴野 雅宏
 点数改定の時期がきた。小生が長年主張してきた在宅医療の点数の簡素化は行われなかった。小生は、2016年から、毎年論壇で在宅医療の問題点を指摘してきた。それぞれテーマは「将来に希望が持てる在宅医療の構築を」「現状の点数設定・算定要件では在宅医療の未来描けない」「改定1カ月 不合理で複雑怪奇な在宅点数の改善が早急な課題」「在宅医療の未来は点数の簡素化と合理化にあり」である。一貫して在宅医療の点数は難解で複雑怪奇で更に非合理的で、医学的には全く無意味なものだと論じてきた。
 在宅医療に関わっていない先生方にはなかなか理解していただけないと思うが、過去の点数改定の歴史を踏まえての実体を説明してみたい。
 そもそも複雑な制度は、施設入所の患者への算定から始まった。当時、例えば同じ家の夫婦2人に同時に訪問診療をした場合、同一患家の算定ルールで、夫は訪問診療料+在宅時医学総合管理料(以下「在医総管」)、妻は再診料+在医総管を算定した。このルールがグループホームにも適用され、例えば、入所者が18人の場合、1日で全員診ると、この内の1人は前述の夫と同じ、他の17人は妻と同じ算定となり、誰に訪問診療を算定するのか、それをどう説明するのかという問題があった。
 しかし、話はまだ序の口である。2010年改定で、訪問診療料に「同一建物居住者」という、同じ屋根の下規定(小生はこう呼んでいる)が出現した。そして、2014年改定で、在医総管にも「同一建物居住者」の区分が導入され、アパート等の別々の部屋に訪問診療した場合に、在医総管の点数が大幅に下がった。更に施設に訪問して、同時に複数の患者を診療すると、施設入居時等医学総合管理料(以下「施設総管」)の点数も大幅に下った。
 ただ、この時の改定は、施設入所者に対して、月に一度でも1人だけ訪問診療した場合、その患者は施設総管の「同一建物居住者以外」の高い点数が取れるという例外規定があった。例えば、有料老人ホームの15人の患者を訪問する場合、1回目の訪問診療は15日間かけて1人ずつ行い、2回目は15人まとめて1日で訪問すれば理論上は高い点数が算定できた。しかし、実際はどうか。施設からすれば何でまとめて訪問しないのか?15日連続で訪問して1人ずつ診療する意味があるのか?という疑問や批判が出てくることは必然である。訪問する側の労力も大変なもので、何より医学的な合理性も必要性も全くなく、患者にも説明のしようがない。まさか、高い点数を取るためなどと言えるわけもなく、医師と施設と患者との信頼関係が根底的に崩れるのは目に見えていた。院内処方の小生の医院の場合、今まで通りに複数人数ずつ訪問診療をしたため、大幅減収・赤字となった。
 極めつけは、2018年改定である。前述の例外規定が無くなりさらに複雑な要件が導入され、今に至る。その要件が、月末時点で、各施設において1月に訪問診療した患者の人数で点数が変わる「単一建物」の考え方など、3つの区分が導入された。①施設で訪問診療した人数が1人、2から9人、10人以上の場合で区分②患者ごとで月1回か2回以上の訪問診療の回数で区分、③患者の重症度によって区分され、①から③の要件を当てはめて算定点数が決まる。このパズル的な算定は今後も続くことになった。
 実際、ある施設では入居者数が常に変動しており、訪問診療を行う患者数も8人から11人の間で常に変動し、同じ診療内容で、毎月請求点数が異なり、患者が納得する合理的な説明がつかず困った例があった。
 患者状態や訪問回数で区分されるのは説明できるが、居住状況や診察した人数で算定点数が異なることを患者が納得する説明はできない。厚労省にその説明を求めたい。
 在宅医療の点数制度は複雑すぎ、もはや限界である。在宅療養支援診療所は、24時間患者対応をしている。小生は本来の医師以外の全く意味の無い事で頭を悩まされるのはもうやめにしたいという強い願いから今回も筆をとった次第である。

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