マイナンバーカードによるオンライン資格確認は百害あって一利のみ

春日部市  渡部 義弘
Ⅰ.はじめに
 マイナンバー制度は当初、社会保障・税・災害対策の分野の活用とされてきたが、直後に策定された「日本再興戦略2016」により、営利企業を巻き込んだ利活用の領域拡大が目論まれ、憂慮すべき事態となっている。利活用の基盤データ作成の効率化に必須と思われているマイナンバーカード(以下「MNC」と略す)の普及率は総務省の宣伝虚しく2019年11月1日時点で、全国では14.3%、埼玉県では14.0%と低迷している。そこで総務省にとって起死回生とも言うべき普及策が出された。保険証機能をMNCにICチップの形で付与し、2021年3月より全ての医療機関窓口でオンライン資格確認が行えるようにするというものである。本稿ではその問題点につき言及する。

Ⅱ.現場でのメリット・デメリット
 メリットは資格喪失後受診による返戻が無くなることに尽きる。しかし、オンラインによる資格確認は、従来の保険証に2桁の枝番を加えた個人単位の保険証や、保険証機能のみの個人番号カードを作れば対応できる。マイナンバーの入り込む余地がないところへMNCを使用すること自体、政策的疚しさを感じさせる。直近の厚労省の研究報告書によれば資格喪失等による返戻件数は全体の0.27%。これを「0」にする為だけに以下のデメリットを背負い込む気になるだろうか?
 デメリットは、保険証と異なり、より広範で超センシティヴな個人情報へのアクセスを可能にするMNCを多数の患者が、医療機関に持ち込むことになる。現在も一定の確率で保険証の紛失が起こっているが、今以上に院内での紛失が無かったことの証明を要求されたり、悪意の人に拾得されれば、甚大な被害が起こりうる。更に職員や他の患者による、盗撮的手段等により番号を入手する犯罪が起こることが懸念される。
 また、読み取るための顔認証付きカードリーダーの使用も、高齢者・障がい者など本人が行えなければ、職員が代行する必要がある。この為、医療機関が管理責任を負い、その対策として、銀行の様に、職員教育やガイドラインの策定などが必要になる。更に、カードリーダーは無償で配布するというが、医療機関が負担するオンライン化のためのインフラ整備、その後の運用費用やセキュリティ対策の費用は診療報酬ネットマイナスの中、新たな経費増を生み出し、看過できない。

Ⅲ.医療制度上そしてその周辺の問題
 MNCの医療導入は現場のデメリットに止まらない。厚労省の「データヘルス改革推進本部」はMNC資格確認によりマイナンバーとレセプトデータが容易に紐づけされ、レセプトデータの更なるビックデータ化を実現しようとする。ビッグデータが患者の自己健康管理や研究・臨床技術・新薬開発等、医療の発展に寄与するものとなればよいが、民間企業の営利活動に利用されることもマイナンバー制度での利活用の領域拡大の一つとして検討されており、問題である。マイナンバーが入り込んだ瞬間、ビジネス目線での利活用が成長分野として推進され、プライバシー保護に関してのリテラシーの低い者が参入する恐れが高まり、患者の自己情報コントロール権が侵害されかねない。また、個人のレセプトデータは、健康産業や名簿売買業者などにとってうまみのあるネタとなりうる。漏えい・不正使用が起これば、その被害は甚大である。
 更に社会保障個人会計を導入するための基盤づくりともなる。ひょっとすると、受診時自己負担率をリアルタイムで変化させること(ブラックは健保法附則違反の3割プラス自己負担?)になるかもしれない。

Ⅳ.財政面の疑問
 MNCによるオンライン資格確認カードリーダーは顔認証付きで1台9万円を想定し、全国22万か所に配布するという。因みに医療のICT化全体の予算が2年連続して300億円ずつ計上されている。国民の利益に逆行する「データヘルス改革」にならぬよう監視していく必要がある。総務省は2020年度予算案の中で、MNC普及・利活用促進費として約1,601億円、カード取得者がキャッシュレスで買い物すると付くマイナポイント実施費として約2,458憶円を計上している。MNC普及ではなく、コロナ関連の対策費の足しにした方がよほどましであろう。
 以上から、MNCによるオンライン資格確認は百害あって、代替の存在する一利のみの愚策と考える。

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