論壇

新型コロナの影響 経済危機でも国民皆保険の維持を

川口市 石津 英喜
 本来ならば今頃は、日本中が東京オリンピックの開催を控えて大いに盛り上がっていたであろう時期だ。しかしながら、新型コロナの影響で医療機関の経営が厳しくなっているのはいうまでもない。協会の緊急会員アンケートでも90%を超えて患者数が減少、それに伴い診療報酬が激減し運転資金が足りなくなっている事態が明らかとなった(先月号で掲載)。感染のリスクに晒されながら治療に当たっている現場の頑張りに報いることができず、多くの医療機関はまさに経営危機に陥っている。国の財政支援なしには医療の継続は難しく、さらなる補助金や助成金が必要だ。筆者は2016年8月の本紙の論壇「日本の衰退は止められるか?」で、オリンピック後の日本の衰退を危惧する記事を書いたが、どうやらオリンピックが開かれないまま未曽有の不況が来るようだ。
 国民の誰もが、全国どこでも、同じ料金で、同じ水準の必要な医療を平等に受けられる、これこそが日本が世界に誇る国民皆保険制度の理念であり、安心の基盤だ。しかし、新型コロナにより誰でもどこでも必要な医療を平等に受けられなくなった時期があった。発熱があり「新型コロナかもしれない」と疑がわれる人でも「4日間熱が続くまで」PCR検査ができない、PCR陽性の無症状者が感染症病棟に隔離収容され、有症状者はベッドが足りないからと救急搬送でたらい回しにされる事象が出たのである。PCR検査が保険適用となり保健所を通さずに「帰国者・接触者外来」等で受けられるようになったのは3月6日であった。また、症状がない入院患者等について、医師が必要と判断した場合の保険適用は5月15日の事務連絡である。
 PCR検査体制・感染症病床管理がもう少しうまく機能していれば、マスコミで話題となった著名人などの犠牲者の一部を防げたかもしれないし、院内感染の一部も防げたかもしれない。従来の予想しない疾患に対して迅速に対応できるような見直しは今回の事態を教訓にすべきであろう。
 また、新型コロナの感染状況に関して「ニューヨークは2週間後の東京だ」、「日本の現状は手遅れに近い」などの報道が見られた。しかし、真の理由は不明だが、京都大学の山中伸弥教授が呼んでいる「ファクターX」により、日本では新型コロナの感染爆発が現時点で起こっていない。ひそかに〝日本でよかった〟と胸をなでおろした人も少なくないのではないか。
 笹川平和財団「SPFアメリカ現状モニター」の4月14日コラムで山岸敬和南山大学国際教養学部教授は、アメリカでは無保険者が新型コロナに感染すると、多額の治療費を請求される。それが怖くて、人々は無料であっても新型コロナの感染検査にすら行かなくなり、感染者は重症化し、家族や地域にも感染が広がる。また、所得階層によって居住地域が異なるため、感染者は一気に増加する。感染者や死亡者の中で黒人やヒスパニックが多いのにはこのような背景も関係している。しかし、無保険者に臨時の保険加入期間を設けることにトランプ政権は消極的であり、次期大統領では医療制策が最重要争点となるだろうと述べている。
 日本では非正規雇用・自営業・フリーランスの方が加入している国保では、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少し、保険料を払えない場合、減免・免除が行われている。健康保険組合でも社会保険料等の猶予や免除が行われている。ただ、いずれもホームページを見て、申請しないと始まらない。
 さらに、オリンピック中止の影響も受け国家財政も悪化するだろう。日本の皆保険制度が崩壊へむかう危機に瀕している。今のところ、日本が新型コロナウイルスの影響をここまでで食い止めているのは日本の死亡者が少ない「ファクターX」の中心に国民皆保険があり、国の病床削減や社会保障改悪政策に対して保険医協会はじめ医療現場が戦ってきたことも大きな要因であろう。しかし、このまま医療機関の経営危機が続けば第2波・第3波が来た時に対応できなくなる。申請により5月診療分の診療報酬概算前払いが行われたが、それでは到底足りない。国はアベノマスクやブルーインパルスよりも医療機関に特化した手厚い財政支援、平時から医療機関が無理せずに経営が可能となる診療報酬の増額、患者がいつでも必要な医療を受けられる国民皆保険の維持を行う必要がある。

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