論壇

ポスト・コロナの時代 精神科の視点で見る今後の社会の変容

富士見市  里村 淳
 中国・武漢に起源をもつ「新型コロナウイルス感染症」は瞬く間に世界中に広がり、いわゆるパンデミックの状態を来した。幸い、わが国は世界全体から見ると感染が拡大せず抑え込みに成功したように言われているが、埼玉県でも再び感染者数は増加しており、まだまだ予断を許さない状況にある。
 約100年前のスペイン風邪を例にとると、今年の秋頃に第2波がやって来て、しかも毒性が強くなるとも、逆に弱毒化するとも言われているが、「新型」だけにこれまでのウイルス論がそのまま通用するとは限らない。
 まだ終息には程遠い今の段階で、世界では早くも「The Post Corona World」なる概念が現れ、コロナ後の世界、アフター・コロナ、ポスト・コロナという言葉が定着しつつある。文明論としての性格が強いが、論点は政治、経済、社会、文化、医療などさまざまな領域に及ぶ。
 文芸春秋7月号にビル・ゲイツ氏の論文が紹介されている。今年の4月の英文誌「エコノミスト」の特集「コロナ後の世界」に掲載された論文の抜粋である。彼は、「もし今後数十年で1000万人以上の人が死ぬことがあるとすれば、最も可能性が高いのは戦争ではなく感染力の非常に高いウイルスだろう」と述べている。ウイルス脅威論は以前からの持論であり、まさに今日の事態である。
 さらに、コロナ後は国際連帯によるウイルス対策の必要性を強調。「悪意を持った人間が、感染症のウイルスを自前の実験室で製造し、武器として使用した場合にも備えることができる。パンデミックへの備えは、生物兵器テロへの備えともなるのだ」とも述べている。
 これまで、人類が滅亡する原因というと、特に核兵器があげられていたが、さらにウイルスが加わったようである。恐ろしい話である。
 ポスト・コロナ論では、コロナが終息しても世界は元には戻らない、生活も変わってくるという点では皆一致している。世界情勢もそうであるが、身近な問題として「在宅ワーク」「WEB会議」があげられる。これらは今後、当たり前のものになっていくようである。WEB会議のツールであるZOOMは、スマホと同じくらいポピュラーなものになった。
 感染拡大防止の観点から在宅ワークが多くの企業で取り入れられているが、その弊害も出始めている。生活は不規則になりがち、運動不足、狭い生活環境から来る圧迫感。その結果、コロナ太り、コロナDV、ゲーム依存などさまざまな弊害を生んでいる。
 しかし、職場の精神保健を産業医学的な立場から見ると新たな問題が生じてくるのではないか。終身雇用から成果主義への移行の流れの中で、伝統的な職場の人間関係は変容し、組織に馴染まない若者が増え、その結果「新型うつ」といわれる、会社についていけない社員が増加していることが知られている。
 その中で、この在宅ワークやZOOMの活用で済む会議や打ち合わせは、職場の人間関係や企業の在り方にどのような影響をもたらすのか、今後注視していかなければならない問題である。
 かつてのリーマンショック後の経済不況の中で、わが国では「自殺者3万人」の状態がしばらく続いたが、経済の復興とともに自殺者数は以前の状態に戻ってきている。コロナうつ、コロナ自殺を予感している人は多いが、精神科外来では、コロナに関連した患者はまだコロナ不安のレベルで、コロナうつ、コロナ自殺の波はまだ先のことのようである。
 これから第2波、第3波があると推測されるのでまだわからないが、今のところわが国の新型コロナウイルス対策は、行動制限は自粛という強制力のないもので大きな成果を上げたと言われている。しかもそれは「民度の高さ」によるものであると自画自賛している人もいるが、まだまだ予断は許さない。

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