コロナ禍での個別指導の実施 そこで見えてきたものは

上尾市 小橋 一成
 COVID-19は未だ衰えることを知らず、さらに感染拡大が現実のものとなりつつある。医療機関では患者をはじめとしてすべての人に感染症対策の注意が払われ、いつもより時間をかけて診ることになる。その他、電話対応、書類の記載など仕事量は格段に増えている。
 マスク、消毒液等の医療資材が高騰している一方で受診する患者は大幅に減少しており、収入は激減している。職員の給与も保証できない状況である。
 医療従事者の肉体的、精神的ストレスは続いている。今、地域医療の崩壊が叫ばれているが、そんな生易しいものではない。埼玉県では、収入減による閉院が既に起きている。これが現状である。

保険診療のルールに従う
 言うまでもなく医師は自分の好きな診療行為ができるということではない。保険診療のルールに従うこと。これは患者にとって、効率よく適切な医療を受けられ、ひいては皆保険制度を守ることになる。
 よく個別指導の場で、「あなたは保険医なのだから保険診療のルールは知っていますよね」と聞かれる。ならば、関東信越厚生局(以下、厚生局)の職員も、国家公務員法について知っておくべきだと思うのだが。指導担当者の中には、この法律を全く理解していないのか、知らない顔をしているのか、あるいは曲解していることが指導を通じてよく分かる。
 保険診療のルールについては、大学教育でも、医師になってからの大学勤務、病院勤務でも、教育されることはない。どこかで勉強しなければならない。協会は冊子「個別指導対策の要点」を発行し、20年間「個別指導対策講習会」を開いてきた。この会は、カルテの記載から始まり関連する法令まで解説している。毎年多くの会員が参加しており、本当に真剣味を感じる。しかし、受講者は例年100名強であり、すべての会員に教育できるわけではない。本来ならば、厚生局も教育の一端を負って良いと思う。

医療の現場との意思疎通が必要
 これまでに個別指導についての具体的な説明はあったのだろうか。毎年、集団的個別指導が実施されている。以前は質問ができたが、今は全く受け付けなくなった。新規集団指導の通知からも、出席しなくてもペナルティーはない旨の文言を削除してしまった。それ以上は、何事も教えない、知らしめない、情報を受けない、という考えが一貫してある。
 厚生局になってから、協会は懇談の実施を毎年申し込んでいる。例外的に実施されたことはあるが、定期的には受けない。今まで、医療従事者と接触する機会はさまざまにあったはずである。しかし、保険医の要望は拒否されている。医療現場や患者の切実な状況が伝わっていない。

個別指導は必要である。しかし、今行う必要はあるのか
 今年度は8月から個別指導が実施され始めた。そこでは「3密」を避けるため、指導を受ける人数制限がされるなど、一定の対策はとられている。しかし、指導はビニール板が設置されているため、非常に声が聞きにくいといわれている。話が通じずらく、効果的に個別指導が行われていない。さらには、膨大な資料の持参が求められている。また、混雑した交通機関を利用するため、感染の危険性がある。万一感染したときの保証について質問したが、明快な返答はなかった。
 少なくとも今年度は個別指導を実施するべきではない。今やるべきことは、医療機関に様々な情報を提供することである。保険診療のルールや、個別指導で指摘した事項などの情報を丁寧に与えることが最優先される。
 個別指導を行い無駄なエネルギーを費やし保険医の体力を奪い、結果的にCOVID-19の拡大を利することにならなければ良いと思う。

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