論壇
マイナンバーカードによるオンライン資格確認には一利すら無かった
春日部市 渡部 義弘
Ⅰ.はじめに
政府は5月25日、マイナンバーカード(以下MNCと略す)に保険証機能を付与しオンラインで資格確認することを決定した。MNC普及策として打ち出されたものの10月11日現在、資格確認に必要なカードリーダーの申込数は全体で14.5%。薬局こそ24.3%だが医科診療所においては9.0%と低迷している。
10月14日の第131回社会保障審議会医療保険部会において「周知が不十分」、「多くの機関が様子見」、「システムベンダーの見積もりが過大」等を課題としているが、見当違いな分析と思わざるを得ない。普及を目論む在り方について改めて考察したい。
Ⅱ.現場のメリットは無きに等しい
医療機関におけるメリットとして謳われた資格確認と患者データ取り込みの利便性であるが、11月2日、厚労相とデジタル改革担当大臣が顔認証付きカードリーダー使用を実演し、本人確認まで1分もかからずに終えたと報道された。しかし、従来の保険証目視確認でも、1分とかからないため全くメリットではないと言える。保険資格情報自動取り込みとはいうものの、そのままカルテ1号用紙が完成することはなく、結局画面上で確認し、また新患や保険種別の変更であれば、頭書の入力作成は従来通りであり、事務の仕事量は変わらない。
11月6日、武田総務相は2022年度中にはモバイル端末にMNC機能搭載を行うとし、実証実験や法整備を進めると発表した。もし実現した場合、MNCとモバイル端末の両者に対応できるリーダーか、それぞれに対し1台ずつ配置が必要になるかもしれない。2023年の補助期限ぎりぎりまで様子見するのが賢明である。
Ⅲ.その後の流れ
10月に厚労省よりオンライン資格確認等に係るガイドラインが出された。その内容は端的に言えば、「責任の所在」、「医療情報システムの安全管理に関するガイドラインに準じて」を連呼し、運用については詳しく定めている。しかし、あくまで運用レベルのガイドラインであり、MNCの紛失や盗難、盗撮等による個人情報漏洩に対する賠償責任や法的罰則については全く発出されていない。つまりガイドラインはデジタル情報に関する内容だけであり、MNCそのものの取扱いに関する内容にはなっていない。
その後の流れを追うと、10月30日には田村厚労相が追加的財政支援等の検討を発表。これを受け、厚労省は普及に向けた「加速プラン」を策定。要するに札束で頬をたたいて医療機関を動かそうという陳腐なプランである。そもそもMNCの保有率は11月5日現在で22%。保険証利用の申し込みは保有者のうちわずか4.4%であり、サイクルが回るとは到底思えない。
自民党デジタル社会推進本部「マイナンバー小委員会」は保険証の将来的な廃止を提案した。MNCの目的は社会保障システムの円滑化であるが、オンライン資格確認はMNCの目的を大きく逸脱するものであり、保有が義務化されていない段階で保険証を廃止することは、国民皆保険の崩壊につながる。
Ⅳ.終わりに
政府は我が国が先進国の中でも社会システムのデジタル化が非常に遅れていることに焦燥感を覚えており、デジタル省の設置に象徴されるよう、性急なデジタル化を推進しているが、これは多大な害悪を生む可能性を孕んでいる。個人情報の保護設定や同意の担保が極めて希薄な状態を放置するという意味では、今回のMNCによる資格確認はマイナンバーによる国民管理のツールとしての普及と、成長産業としての医療のビジネス化を目論むデータヘルス改革の基盤形成が目的で、決して医療現場や患者のために設計されたものでないことが明らかになりつつある。
導入は個人の自由であるが、その影響については十分考慮していただければ幸いである。
政府は5月25日、マイナンバーカード(以下MNCと略す)に保険証機能を付与しオンラインで資格確認することを決定した。MNC普及策として打ち出されたものの10月11日現在、資格確認に必要なカードリーダーの申込数は全体で14.5%。薬局こそ24.3%だが医科診療所においては9.0%と低迷している。
10月14日の第131回社会保障審議会医療保険部会において「周知が不十分」、「多くの機関が様子見」、「システムベンダーの見積もりが過大」等を課題としているが、見当違いな分析と思わざるを得ない。普及を目論む在り方について改めて考察したい。
Ⅱ.現場のメリットは無きに等しい
医療機関におけるメリットとして謳われた資格確認と患者データ取り込みの利便性であるが、11月2日、厚労相とデジタル改革担当大臣が顔認証付きカードリーダー使用を実演し、本人確認まで1分もかからずに終えたと報道された。しかし、従来の保険証目視確認でも、1分とかからないため全くメリットではないと言える。保険資格情報自動取り込みとはいうものの、そのままカルテ1号用紙が完成することはなく、結局画面上で確認し、また新患や保険種別の変更であれば、頭書の入力作成は従来通りであり、事務の仕事量は変わらない。
11月6日、武田総務相は2022年度中にはモバイル端末にMNC機能搭載を行うとし、実証実験や法整備を進めると発表した。もし実現した場合、MNCとモバイル端末の両者に対応できるリーダーか、それぞれに対し1台ずつ配置が必要になるかもしれない。2023年の補助期限ぎりぎりまで様子見するのが賢明である。
Ⅲ.その後の流れ
10月に厚労省よりオンライン資格確認等に係るガイドラインが出された。その内容は端的に言えば、「責任の所在」、「医療情報システムの安全管理に関するガイドラインに準じて」を連呼し、運用については詳しく定めている。しかし、あくまで運用レベルのガイドラインであり、MNCの紛失や盗難、盗撮等による個人情報漏洩に対する賠償責任や法的罰則については全く発出されていない。つまりガイドラインはデジタル情報に関する内容だけであり、MNCそのものの取扱いに関する内容にはなっていない。
その後の流れを追うと、10月30日には田村厚労相が追加的財政支援等の検討を発表。これを受け、厚労省は普及に向けた「加速プラン」を策定。要するに札束で頬をたたいて医療機関を動かそうという陳腐なプランである。そもそもMNCの保有率は11月5日現在で22%。保険証利用の申し込みは保有者のうちわずか4.4%であり、サイクルが回るとは到底思えない。
自民党デジタル社会推進本部「マイナンバー小委員会」は保険証の将来的な廃止を提案した。MNCの目的は社会保障システムの円滑化であるが、オンライン資格確認はMNCの目的を大きく逸脱するものであり、保有が義務化されていない段階で保険証を廃止することは、国民皆保険の崩壊につながる。
Ⅳ.終わりに
政府は我が国が先進国の中でも社会システムのデジタル化が非常に遅れていることに焦燥感を覚えており、デジタル省の設置に象徴されるよう、性急なデジタル化を推進しているが、これは多大な害悪を生む可能性を孕んでいる。個人情報の保護設定や同意の担保が極めて希薄な状態を放置するという意味では、今回のMNCによる資格確認はマイナンバーによる国民管理のツールとしての普及と、成長産業としての医療のビジネス化を目論むデータヘルス改革の基盤形成が目的で、決して医療現場や患者のために設計されたものでないことが明らかになりつつある。
導入は個人の自由であるが、その影響については十分考慮していただければ幸いである。