論壇
デジタルヘルス改革とオンライン資格確認の再考を
春日部市 渡部 義弘
Ⅰ オンライン資格確認の現況
オンライン資格確認はマイナンバーカード(以下、MNC)普及策が本質である。10月20日を「本格運用」開始としたオンライン資格確認であるが、社会保障審議会医療保険部会の資料によれば10月20日付で導入申込機関数は全体で56.3%、医科診療所で44.0%、歯科診療所で48.6%と4月25日をピークに診療所ベースでは減少傾向である。すなわち新規申し込み以上の申し込み取り下げ機関の増加が推定される。また患者側から見るとMNCの所持率が37.9%、うち保険証化が完了しているのは10.9%と、保険証として使えるMNCを持つ患者は全人口の4.1%に過ぎない。100人の外来受診がある日にわずか4人しかカードリーダーを使用しないということである。
Ⅱ 強引な導入勧誘と偏向的な広報
支払基金を通じたパンフレットによれば、「運用施設続々拡大中」と謳われている。だが現実には、前出の資料によれば10月20日時点で準備完了施設が全体で8.9%(医科診療所6.8%、歯科診療所6.6%)、運用開始に至っては全体でわずが5.1%(医科診療所3.6%、歯科診療所40%)と惨憺たるものである。カードリーダー全額支給の補助金がありながらこの程度であるのは、そもそも導入する気になれない中身であることを宣伝しているようなものだ。厚労省が通販番組のような誇大広告を行っているのは滑稽ですらある。更に制度の周知のため、一般向けにタレントまで起用して広報しながら、今年3月に稼働不能と判明した時点でのお詫びの広報は一切なかった。もはや開いた口が塞がらない。
Ⅲ メリットといわれたが
支払基金・国保連合会で、レセプトの9月診療分から生活保護など一部の例外はあるものの、資格誤りのレセプトは支払い側で振替等を行うことになった。オンライン資格確認を行うことによる返戻の減少メリットが霧散してしまったことは特記に値する。
Ⅳ 個人情報の保全に対する嘘
資格確認にはMNCを使用するが、ICチップを読み取るだけなので、マイナンバーそのものは使わず、特定個人情報の漏洩の心配はないと宣伝している。だがICチップには券面記載事項(氏名・住所・生年月日・本人の写真のほかマイナンバー(!)が含まれる)が入っている。このマイナンバーがカードリーディングを経て、何らかの事故で漏洩した場合、紐付けされた個人データが引き出される恐れがある。MNC紛失やマイナンバーだけが知られても悪用されることはないとされるが、昨今のIT犯罪技術進化(?)を思えば大いに懸念が付きまとう。支払い能力等により医療差別が起こりかねず、社会保障個人会計導入の危惧は以前から指摘される通りである。
Ⅴ 単に反対している訳ではない
要は、医療にマイナンバーを持ち込ませないことであり、資格確認や医療データの利活用等は、個人情報保護に配慮し、医療の良心なき市場化を排除できるならば一律に反対するものではない。
そもそも、マイナンバーと医療情報は「紐付けしない」前提であったものが、いつの間にか、事実上紐付けされ、医療情報は患者単位で集積されることになってしまった。既成事実化されてしまった医療情報の集積は「デジタルヘルス改革」と称され、2024年には傷病名や検査結果、画像データなどまで含まれるとしている。平行して電子カルテ規格の統一化も進めるとしており、カルテ情報の多くがマイナポータル等に登録化されることは、今後様々な問題として波及していくことが必至であろう。医療業界側でも改めて検討が必要と思われるが、オンライン資格確認等システムの導入は、医療界の情報集積と画一化に向けた端緒の課題であることを政府は、丁寧に説明を尽くすべきである。
Ⅵ 終わりに
診療所のオンライン資格確認導入率の低さ、保険証機能を持つMNC所持率の極端な低さ。導入開始から一年近くが経つ今、医療現場も患者もその必要性を強く感じていない現実と、その有害無益ぶりを直視する時が来たのではないか。死に体のシステムとMNC普及のため、霞が関は「伝家の宝刀」=「義務化」を抜くかも知れない。今回の問題が押し切られたとしても、常に医療施策の是非を一人一人が真剣に考えていく必要性は忘れないでいたいものだ。
オンライン資格確認はマイナンバーカード(以下、MNC)普及策が本質である。10月20日を「本格運用」開始としたオンライン資格確認であるが、社会保障審議会医療保険部会の資料によれば10月20日付で導入申込機関数は全体で56.3%、医科診療所で44.0%、歯科診療所で48.6%と4月25日をピークに診療所ベースでは減少傾向である。すなわち新規申し込み以上の申し込み取り下げ機関の増加が推定される。また患者側から見るとMNCの所持率が37.9%、うち保険証化が完了しているのは10.9%と、保険証として使えるMNCを持つ患者は全人口の4.1%に過ぎない。100人の外来受診がある日にわずか4人しかカードリーダーを使用しないということである。
Ⅱ 強引な導入勧誘と偏向的な広報
支払基金を通じたパンフレットによれば、「運用施設続々拡大中」と謳われている。だが現実には、前出の資料によれば10月20日時点で準備完了施設が全体で8.9%(医科診療所6.8%、歯科診療所6.6%)、運用開始に至っては全体でわずが5.1%(医科診療所3.6%、歯科診療所40%)と惨憺たるものである。カードリーダー全額支給の補助金がありながらこの程度であるのは、そもそも導入する気になれない中身であることを宣伝しているようなものだ。厚労省が通販番組のような誇大広告を行っているのは滑稽ですらある。更に制度の周知のため、一般向けにタレントまで起用して広報しながら、今年3月に稼働不能と判明した時点でのお詫びの広報は一切なかった。もはや開いた口が塞がらない。
Ⅲ メリットといわれたが
支払基金・国保連合会で、レセプトの9月診療分から生活保護など一部の例外はあるものの、資格誤りのレセプトは支払い側で振替等を行うことになった。オンライン資格確認を行うことによる返戻の減少メリットが霧散してしまったことは特記に値する。
Ⅳ 個人情報の保全に対する嘘
資格確認にはMNCを使用するが、ICチップを読み取るだけなので、マイナンバーそのものは使わず、特定個人情報の漏洩の心配はないと宣伝している。だがICチップには券面記載事項(氏名・住所・生年月日・本人の写真のほかマイナンバー(!)が含まれる)が入っている。このマイナンバーがカードリーディングを経て、何らかの事故で漏洩した場合、紐付けされた個人データが引き出される恐れがある。MNC紛失やマイナンバーだけが知られても悪用されることはないとされるが、昨今のIT犯罪技術進化(?)を思えば大いに懸念が付きまとう。支払い能力等により医療差別が起こりかねず、社会保障個人会計導入の危惧は以前から指摘される通りである。
Ⅴ 単に反対している訳ではない
要は、医療にマイナンバーを持ち込ませないことであり、資格確認や医療データの利活用等は、個人情報保護に配慮し、医療の良心なき市場化を排除できるならば一律に反対するものではない。
そもそも、マイナンバーと医療情報は「紐付けしない」前提であったものが、いつの間にか、事実上紐付けされ、医療情報は患者単位で集積されることになってしまった。既成事実化されてしまった医療情報の集積は「デジタルヘルス改革」と称され、2024年には傷病名や検査結果、画像データなどまで含まれるとしている。平行して電子カルテ規格の統一化も進めるとしており、カルテ情報の多くがマイナポータル等に登録化されることは、今後様々な問題として波及していくことが必至であろう。医療業界側でも改めて検討が必要と思われるが、オンライン資格確認等システムの導入は、医療界の情報集積と画一化に向けた端緒の課題であることを政府は、丁寧に説明を尽くすべきである。
Ⅵ 終わりに
診療所のオンライン資格確認導入率の低さ、保険証機能を持つMNC所持率の極端な低さ。導入開始から一年近くが経つ今、医療現場も患者もその必要性を強く感じていない現実と、その有害無益ぶりを直視する時が来たのではないか。死に体のシステムとMNC普及のため、霞が関は「伝家の宝刀」=「義務化」を抜くかも知れない。今回の問題が押し切られたとしても、常に医療施策の是非を一人一人が真剣に考えていく必要性は忘れないでいたいものだ。