論壇
今回の診療報酬改定を読み解く
上尾市 小橋 一成
この2年間、新型コロナウイルス感染症により、国民生活は困難を極めた。医療機関もかつてないほどの、非常な経験をした。まずはマスクが全く足りない、消毒液も足りない状況から始まり、診断のためのPCR検査が十分にできない、治療をしてくれる専門の医療機関へ連絡しても、引き取ってもらえない等々、今日も続く問題が次から次と明らかになった。なぜこんなことになってしまったのであろうか。
端的に言えば、医療機関の体力(人・物・時間・知識)では対応できなかったということが原因である。その大いなる理由は、ここ10年を見ても、診療報酬(ネット)がトータルで約10%下げられたためである。コロナ禍で散々つらい経験をした国民の期待もあり、当然、診療報酬がかなり上げられるものと思われていた。
しかし、診療報酬(ネット)はマイナス0.94%の引き下げ、「本体」がプラス0.43%とわずかに上がったのみである。その中身をみると、不妊治療の保険適用、救急等に携わる看護師の処遇改善などが含まれており、実質的な本体部分はプラス0.23%といわれる。厚労族議員の中でも「実質的にはマイナス改定」との声が漏れている。
たった5カ月前、日本では新型コロナ患者が感染爆発し、日本では初めて、医療機関に受診することができず、自宅で待機し、そのまま人知れず亡くなった方が出た。まさに医療崩壊が起きたのである。
今回の診療報酬の改定の中にさらに大変な問題が含まれている
改定率に目を奪われてしまうけれども、中身をよく見ると、もっと医療機関に深刻な問題を起こす内容が含まれていた。地域包括ケアシステムの中で、かかりつけ医が決められ、そして、「リフィル処方箋」が実行される。これは、一定期間に繰り返し使用できる処方箋である。すなわち、医師の診察がなくても、処方箋1枚を繰り返し薬局で薬を受け取ることができる、ということである。これは、もともと、無診療投薬の禁止は医師法第20条「医師は、自ら診療しないで治療をし、─中略─してはならない」と規定されており、今まで無診療投薬は医師がペナルティーを受けていたのである。今まで厚労省が指導してきた内容と全く整合性のないことを導入したのである。
すでに、小児科・耳鼻咽喉科を筆頭とし診療収入自体がコロナ禍で激減している状況である。その上、診察をしないリフィルが導入される。そして、肝心なことは結果的に同じ薬を使うことになっても、医療は「診る」ことが基本であり、診療の一部を取り出して、強引に診察機会を減らすことは、まさに、医療そのものを否定することになる。
この発想は、財務省の財政制度等審議会が言い出したものである。素人からの視点であり、我々専門家からすると実に奇妙で許しがたいことである。先の衆議院総選挙では、診療報酬改定の中身については全く話が出ていなかった。選挙結果が出た途端、今回のような改定の中身を発表すること自体、全く納得できないことである。
最後に
今回の診療報酬改定は、新型コロナ感染症の感染拡大の中で行われた。新型コロナ感染症は感染症法に基づき、陽性者は保健所の管轄下に入り、担当する医療機関のもとで治療を行う。通常診療と全く切り離されるのである。このことを逆手にとって、肝心な時にフリーアクセスが機能しないなどと言い始めた。外来診療は、地域包括ケアの「必要な時に必要な医療にアクセス」することが大切であり、24時間365日対応できる機能を持った医師、すなわち、「かかりつけ医機能」を推進することを重視している。手段を選ばず医療費を下げることばかり考えていると思われても仕方ない。国民の命を守る、という強い決意を持たない限り、国民・患者の困難は続くものと思われる。
端的に言えば、医療機関の体力(人・物・時間・知識)では対応できなかったということが原因である。その大いなる理由は、ここ10年を見ても、診療報酬(ネット)がトータルで約10%下げられたためである。コロナ禍で散々つらい経験をした国民の期待もあり、当然、診療報酬がかなり上げられるものと思われていた。
しかし、診療報酬(ネット)はマイナス0.94%の引き下げ、「本体」がプラス0.43%とわずかに上がったのみである。その中身をみると、不妊治療の保険適用、救急等に携わる看護師の処遇改善などが含まれており、実質的な本体部分はプラス0.23%といわれる。厚労族議員の中でも「実質的にはマイナス改定」との声が漏れている。
たった5カ月前、日本では新型コロナ患者が感染爆発し、日本では初めて、医療機関に受診することができず、自宅で待機し、そのまま人知れず亡くなった方が出た。まさに医療崩壊が起きたのである。
今回の診療報酬の改定の中にさらに大変な問題が含まれている
改定率に目を奪われてしまうけれども、中身をよく見ると、もっと医療機関に深刻な問題を起こす内容が含まれていた。地域包括ケアシステムの中で、かかりつけ医が決められ、そして、「リフィル処方箋」が実行される。これは、一定期間に繰り返し使用できる処方箋である。すなわち、医師の診察がなくても、処方箋1枚を繰り返し薬局で薬を受け取ることができる、ということである。これは、もともと、無診療投薬の禁止は医師法第20条「医師は、自ら診療しないで治療をし、─中略─してはならない」と規定されており、今まで無診療投薬は医師がペナルティーを受けていたのである。今まで厚労省が指導してきた内容と全く整合性のないことを導入したのである。
すでに、小児科・耳鼻咽喉科を筆頭とし診療収入自体がコロナ禍で激減している状況である。その上、診察をしないリフィルが導入される。そして、肝心なことは結果的に同じ薬を使うことになっても、医療は「診る」ことが基本であり、診療の一部を取り出して、強引に診察機会を減らすことは、まさに、医療そのものを否定することになる。
この発想は、財務省の財政制度等審議会が言い出したものである。素人からの視点であり、我々専門家からすると実に奇妙で許しがたいことである。先の衆議院総選挙では、診療報酬改定の中身については全く話が出ていなかった。選挙結果が出た途端、今回のような改定の中身を発表すること自体、全く納得できないことである。
最後に
今回の診療報酬改定は、新型コロナ感染症の感染拡大の中で行われた。新型コロナ感染症は感染症法に基づき、陽性者は保健所の管轄下に入り、担当する医療機関のもとで治療を行う。通常診療と全く切り離されるのである。このことを逆手にとって、肝心な時にフリーアクセスが機能しないなどと言い始めた。外来診療は、地域包括ケアの「必要な時に必要な医療にアクセス」することが大切であり、24時間365日対応できる機能を持った医師、すなわち、「かかりつけ医機能」を推進することを重視している。手段を選ばず医療費を下げることばかり考えていると思われても仕方ない。国民の命を守る、という強い決意を持たない限り、国民・患者の困難は続くものと思われる。