論壇
安全保障としての感染症・医療
福田 純
有史以前より、伝染病と飢餓はヒトの存亡の主因を成してきた。約1.1万年前、農耕定住が始まると同時に野牛・猪・狼・鶏等を家畜化した。その結果、それらに寄生していた蚤(のみ)やダニも人間社会に加わり人獣共通感染症が成立した。また、稲作など水辺の定住で蚊が大発生、マラリアは21世紀になっても年間約2億人が罹患している。
当初、風土病は小さな集落(点)に限局していたが、交易により街道(線)で結ばれ、町から都市(面)に広がった。欧州と中国は陸路シルクロードで結ばれ、中東はアフリカとの交差点に位置し、伝染病(ペスト、結核やマラリアなど)はこの道を往来。交易は常に交疫との危険と表裏一体であった。欧州では中世のペストにより当時の人口の3分の1が死亡、100年前のスペイン風邪では世界人口の5,000万人以上、日本でも45万人の死亡記録がある。
パンデミック(Pdm)が起きると死者数のみならず、国の経済にも大打撃を来すことは歴史が証明しており、世界各国は感染症対策を国家安全保障の一角と捉えている。平時から緊急時を想定した事前の準備が不可欠である。
ところが、日本ではその危機意識は薄く、安全保障の思考は醸成していない。その理由として大きく5点考えられる。①真摯に過去(歴史)に学ばない慣習、②問題の先送り、③俯瞰力の乏しい政策決定、④近視眼的な効率性重視、⑤明るい未来への予見力低下、であろうか。これらの根源に政治家の質(志・見識・モラル)の低下がある。政府首脳に国家安全保障に対しての深謀遠慮がない上に、内閣府が人事権を掌握。不適切な人事権を差配し、忖度と言われるグループシンク(集団浅慮)が横行し、国を誤った方向に導いている。
危機管理に対して安全保障(食料・エネルギー・情報管理・経済・法律・国防・災害・倫理・感染症等)の各分野に有能な部員を置き、統括指揮できる博学多才な指揮官の下、機動的な感染症対策の特別チームを設立し、今すぐにでも稼働させることである。
今回のCOVID-19Pdmの社会混乱は急速に増えた感染者に保健所の業務過剰が原因で、これは1994年の保健所法の改悪で保健所が半減したためである。この施策は先の2009年新型インフルエンザPdmの混乱以降もなお、保健所を削減し続けた与党の明確な失政である。この苦い経験が生かされず、再び今回PCR検査難民を出す社会混乱は繰り返された。COVID-19発症初期に厚労省が出した渡航歴等で縛る硬直化した診断指針は臨床現場には足かせでしかなく、厚労省はまたも同じ轍を踏んだ。
Pdm制圧の切り札としてワクチン待望論が湧き、先陣を切ったのがファイザー製薬だった。国産ワクチンは遅れに遅れた。遅れの理由を東大医科研の石井教授が語っている。SARSワクチン完成間近での資金凍結とその後の政府支援額は米国の百分の一程度と見劣りし、この差は「バイオテロ等を視野に常に準備状態の米国との危機意識の差が根底にある」と述べている。
最も危険なエボラ出血熱など1類ウイルスを扱うBSL(バイオセーフティレベル)-4施設の稼働は日本に必要と考える。昨今、外国のBSL-4施設から、自国安全保障の観点から外国人の研究者は締め出される傾向にあり、日本人が研究する場がなくなっている。東京の国立感染症研究所村山庁舎内にある施設は30数年住民反対運動により稼働は制限されている。さらに、昨年7月に長崎大学構内にBSL-4施設が完成したが、ここでも住民の反対運動が起きている。
ならば、住民のいない場所に移転して心置きなく稼働できる場所として、私は東京羽田空港沖の埋め立て地(中央防波堤外側堤防廃棄物処理場)を提案したい。国際空港の隣地で海に面し、陸路はゲートブリッジと臨海トンネルで接続されるのみで、海上保安庁の船が接岸可能な港を整備すればセキュリティは盤石であろう。この島に職員宿舎も建設し研究しやすい環境を整える。BSL-4施設を早急にフル稼働させるならば、この地を使うのが最適と考える。
感染症を国家安全保障の観点から捉え直し、自衛力とウイルス免疫学の発展に世界貢献できる国に日本を変えていきたい。
当初、風土病は小さな集落(点)に限局していたが、交易により街道(線)で結ばれ、町から都市(面)に広がった。欧州と中国は陸路シルクロードで結ばれ、中東はアフリカとの交差点に位置し、伝染病(ペスト、結核やマラリアなど)はこの道を往来。交易は常に交疫との危険と表裏一体であった。欧州では中世のペストにより当時の人口の3分の1が死亡、100年前のスペイン風邪では世界人口の5,000万人以上、日本でも45万人の死亡記録がある。
パンデミック(Pdm)が起きると死者数のみならず、国の経済にも大打撃を来すことは歴史が証明しており、世界各国は感染症対策を国家安全保障の一角と捉えている。平時から緊急時を想定した事前の準備が不可欠である。
ところが、日本ではその危機意識は薄く、安全保障の思考は醸成していない。その理由として大きく5点考えられる。①真摯に過去(歴史)に学ばない慣習、②問題の先送り、③俯瞰力の乏しい政策決定、④近視眼的な効率性重視、⑤明るい未来への予見力低下、であろうか。これらの根源に政治家の質(志・見識・モラル)の低下がある。政府首脳に国家安全保障に対しての深謀遠慮がない上に、内閣府が人事権を掌握。不適切な人事権を差配し、忖度と言われるグループシンク(集団浅慮)が横行し、国を誤った方向に導いている。
危機管理に対して安全保障(食料・エネルギー・情報管理・経済・法律・国防・災害・倫理・感染症等)の各分野に有能な部員を置き、統括指揮できる博学多才な指揮官の下、機動的な感染症対策の特別チームを設立し、今すぐにでも稼働させることである。
今回のCOVID-19Pdmの社会混乱は急速に増えた感染者に保健所の業務過剰が原因で、これは1994年の保健所法の改悪で保健所が半減したためである。この施策は先の2009年新型インフルエンザPdmの混乱以降もなお、保健所を削減し続けた与党の明確な失政である。この苦い経験が生かされず、再び今回PCR検査難民を出す社会混乱は繰り返された。COVID-19発症初期に厚労省が出した渡航歴等で縛る硬直化した診断指針は臨床現場には足かせでしかなく、厚労省はまたも同じ轍を踏んだ。
Pdm制圧の切り札としてワクチン待望論が湧き、先陣を切ったのがファイザー製薬だった。国産ワクチンは遅れに遅れた。遅れの理由を東大医科研の石井教授が語っている。SARSワクチン完成間近での資金凍結とその後の政府支援額は米国の百分の一程度と見劣りし、この差は「バイオテロ等を視野に常に準備状態の米国との危機意識の差が根底にある」と述べている。
最も危険なエボラ出血熱など1類ウイルスを扱うBSL(バイオセーフティレベル)-4施設の稼働は日本に必要と考える。昨今、外国のBSL-4施設から、自国安全保障の観点から外国人の研究者は締め出される傾向にあり、日本人が研究する場がなくなっている。東京の国立感染症研究所村山庁舎内にある施設は30数年住民反対運動により稼働は制限されている。さらに、昨年7月に長崎大学構内にBSL-4施設が完成したが、ここでも住民の反対運動が起きている。
ならば、住民のいない場所に移転して心置きなく稼働できる場所として、私は東京羽田空港沖の埋め立て地(中央防波堤外側堤防廃棄物処理場)を提案したい。国際空港の隣地で海に面し、陸路はゲートブリッジと臨海トンネルで接続されるのみで、海上保安庁の船が接岸可能な港を整備すればセキュリティは盤石であろう。この島に職員宿舎も建設し研究しやすい環境を整える。BSL-4施設を早急にフル稼働させるならば、この地を使うのが最適と考える。
感染症を国家安全保障の観点から捉え直し、自衛力とウイルス免疫学の発展に世界貢献できる国に日本を変えていきたい。