論壇
「初診」オンライン診療解禁は拙速 ~新指針を読み解く~
春日部市 渡部 義弘
Ⅰ 初めに
2022年診療報酬改定に先駆け、昨年11月29日、第19回「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」が開催され、コロナ禍を奇貨として、当初限定的だった初診からのオンライン診療の恒久的拡大が諮られた。法的・医学的議論は従前から不十分であったが、経済界・首相官邸からの強い圧力によって、導入ありきの検討が一気に進んだ。埼玉県保険医協会をはじめ28件のパブリックコメントが提出されたにもかかわらず、無修正で決定されている。
Ⅱ 「診療前相談」・「かかりつけの医師」?
指針の改定案で目を引くのは、オンライン診療を初診から認めるに際しての「諸条件」である。ここで「診療前相談」・「かかりつけの医師」という新しい概念が導入された。
「診療前相談」は日本医学会連合が作成している「オンライン診療の初診に関する提言」に準拠し、「かかりつけの医師」以外を受診するにあたり、症状が適していると判断されるも、医学的情報が不十分な場合に行うとされる。リアルタイムにオンラインで「症状と合わせて医学的情報」を取得し判断するが、「医療行為ではない(保険診療ではないので「診断」や「処方」はできず、診療報酬も発生しない)」と定義されている。
ここに2つの問題がある。1つは「症状・医学的情報確認」は「問診」なしには成立しない(文書情報のみで十分でないから、オンラインで患者と接続する必要がある訳だ)。患者とのやりとりを伴う「問診」は「診断学」の一丁目一番地であり、歴とした医療行為である。
2つ目は「診療前相談」の内容を、診療録に記載することが義務(オンライン診療に進まない場合でも推奨)となっていることである。「診療録に記載する」内容は医師法第24条、療担規則22条に照らしてみれば、「診療行為」の記録であり、診療ではない行為の内容をカルテに記載する必要はないはずである。さらに言えば、「診療録」に記載のある「診療前相談」から24時間以内に患者が死亡した場合の取り扱い等は触れられていない。「かかりつけの医師」に至っては、現在でも定義が混乱している「かかりつけ医」以上に定義があやふやである。多くの関係者との更なる議論を経て、共通認識を確立し、責任の所在等も含めて新たな医行為や「診療前相談」を法令等で明確に位置付ける必要である。これら無理筋の「諸条件」に立脚するオンライン初診はもはや砂上の楼閣ではなかろうか。
Ⅲ 不十分なオンライン診療のエビデンス
初診に適さない症状・医療行為等は日本医学会連合の「オンライン診療の初診に関する提言」に準拠するとの指針には異論がない。しかし、その提言の冒頭には「問診と画面越しの動画のみで診断を確定することができる疾患は、ほとんどない」と宣言されている。AI技術やITは日進月歩であり、その医療における導入の重要性・必要性は誰もが認めるところである。一方オンライン診療のエビデンスは、ほとんどの疾患で不十分であり、対面診療の補完の位置にあることも明確である。初診から導入を求めるならば、有効性・安全性の担保が必要であり、経済界の言うような利便性を優先するのは本末転倒であろう。例えば治療薬における治験のような仕組みを適応疾患ごとに作り、対面診療と同等とエビデンスが認められるものから臨床導入するのが筋ではないか。
Ⅳ 将来展望と終わりに
種々のデバイスの開発が進んでおり、動画だけでなく、診察時の「空気」も含めた五感全てを対面と「同等」の正確さで使えるような技術が近い将来「汎用化」し、廉価で運用できる可能性は想定できるが「今は程遠い」だろう。
この度のオンライン初診の恒久的拡大は、法的建て付けの整備やエビデンスを基にした十分な議論が尽くされているとは到底言えず、導入ありきの極めて拙速・乱暴なものである。医療安全や診断のレベルが担保されずに行えば患者に不利益が及ぶであろう。利用するかしないかは個人の自由だが、画面の向こうに生身の人間がいることを忘れないことは肝要である。
2022年診療報酬改定に先駆け、昨年11月29日、第19回「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」が開催され、コロナ禍を奇貨として、当初限定的だった初診からのオンライン診療の恒久的拡大が諮られた。法的・医学的議論は従前から不十分であったが、経済界・首相官邸からの強い圧力によって、導入ありきの検討が一気に進んだ。埼玉県保険医協会をはじめ28件のパブリックコメントが提出されたにもかかわらず、無修正で決定されている。
Ⅱ 「診療前相談」・「かかりつけの医師」?
指針の改定案で目を引くのは、オンライン診療を初診から認めるに際しての「諸条件」である。ここで「診療前相談」・「かかりつけの医師」という新しい概念が導入された。
「診療前相談」は日本医学会連合が作成している「オンライン診療の初診に関する提言」に準拠し、「かかりつけの医師」以外を受診するにあたり、症状が適していると判断されるも、医学的情報が不十分な場合に行うとされる。リアルタイムにオンラインで「症状と合わせて医学的情報」を取得し判断するが、「医療行為ではない(保険診療ではないので「診断」や「処方」はできず、診療報酬も発生しない)」と定義されている。
ここに2つの問題がある。1つは「症状・医学的情報確認」は「問診」なしには成立しない(文書情報のみで十分でないから、オンラインで患者と接続する必要がある訳だ)。患者とのやりとりを伴う「問診」は「診断学」の一丁目一番地であり、歴とした医療行為である。
2つ目は「診療前相談」の内容を、診療録に記載することが義務(オンライン診療に進まない場合でも推奨)となっていることである。「診療録に記載する」内容は医師法第24条、療担規則22条に照らしてみれば、「診療行為」の記録であり、診療ではない行為の内容をカルテに記載する必要はないはずである。さらに言えば、「診療録」に記載のある「診療前相談」から24時間以内に患者が死亡した場合の取り扱い等は触れられていない。「かかりつけの医師」に至っては、現在でも定義が混乱している「かかりつけ医」以上に定義があやふやである。多くの関係者との更なる議論を経て、共通認識を確立し、責任の所在等も含めて新たな医行為や「診療前相談」を法令等で明確に位置付ける必要である。これら無理筋の「諸条件」に立脚するオンライン初診はもはや砂上の楼閣ではなかろうか。
Ⅲ 不十分なオンライン診療のエビデンス
初診に適さない症状・医療行為等は日本医学会連合の「オンライン診療の初診に関する提言」に準拠するとの指針には異論がない。しかし、その提言の冒頭には「問診と画面越しの動画のみで診断を確定することができる疾患は、ほとんどない」と宣言されている。AI技術やITは日進月歩であり、その医療における導入の重要性・必要性は誰もが認めるところである。一方オンライン診療のエビデンスは、ほとんどの疾患で不十分であり、対面診療の補完の位置にあることも明確である。初診から導入を求めるならば、有効性・安全性の担保が必要であり、経済界の言うような利便性を優先するのは本末転倒であろう。例えば治療薬における治験のような仕組みを適応疾患ごとに作り、対面診療と同等とエビデンスが認められるものから臨床導入するのが筋ではないか。
Ⅳ 将来展望と終わりに
種々のデバイスの開発が進んでおり、動画だけでなく、診察時の「空気」も含めた五感全てを対面と「同等」の正確さで使えるような技術が近い将来「汎用化」し、廉価で運用できる可能性は想定できるが「今は程遠い」だろう。
この度のオンライン初診の恒久的拡大は、法的建て付けの整備やエビデンスを基にした十分な議論が尽くされているとは到底言えず、導入ありきの極めて拙速・乱暴なものである。医療安全や診断のレベルが担保されずに行えば患者に不利益が及ぶであろう。利用するかしないかは個人の自由だが、画面の向こうに生身の人間がいることを忘れないことは肝要である。