さらに複雑化した在宅医療 在宅にオンライン診療は必要か?

川越市  柴野 雅宏
 診療報酬改定の時期が来た。小生は長年在宅医療における点数の簡素化を訴えてきたが、予想通り今回も全く無視された。それどころかさらに複雑化したのである。去年の10月のコード化に伴いレセプトの作成に今まで以上に時間を要するようになった。例えば在宅ターミナルケア加算の算定では、死亡日から遡り2週間以内に行った往診日および訪問診療日をすべて入れなければならず、他にも同一月に往診と訪問医療を両方行った場合はすべての日付を入れなければならない。他施設等に訪問した人数や重症度、グループホームの場合、1ユニット当たりの人数の注釈が必要だったりと、十分不合理で複雑怪奇な制度が今回さらに複雑化した。
 メインイベントの話に入る前の前哨戦としてすべての在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院の施設基準に「人生の最終段階における医療、ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえた、看取りに関する指針を定めるといった訳のわからない項目が追加された。小生は毎年多くの看取りを実施しているが、10人看取りの患者さんがいれば、そのプロセスも10通りある訳で、ガイドラインという考え方はそもそもなじまない。また、機能強化型の支援診、支援病は地域ケア会議等に出席するなど、地域支援事業等に係る関係者で連携することが望ましい旨が追加されたが、これも現場をまったく知らない発想である。いわれなくても1人の患者さんに対し、ケアマネジャーや訪問看護、介護ステーションといった様々な職種と十分な連携をとっているのは当たり前であり、小生はすべてに長年にわたり実施している。
 さて、今日の改定を複雑化したメインイベントが、情報通信機器を用いた訪問医療である。訪問医療にオンライン診療という考え方を導入しようとしているのだが、そもそもオンライン診療というのは離島などで、医師が不在の場合に特例的にやむを得ず行われるべきものであって、往診や訪問医療が可能な場合はなじまない。
 ここまで言った上で今回の改定の内容を紹介する。まず、「月2回以上訪問診療を行っている場合」の点数に「うち1回以上情報通信機器を用いた診療を行った場合」の点数が新設された。次に「月1回訪問診療を行っている場合」の点数に「2カ月に1回情報通信機器を用いた診療を行った場合」の点数が新設された。算定の例を上げると前者の場合、月2回の訪問医療のうち1回はオンライン診療を行ったとすると、対面による訪問診療の日は在宅患者訪問診療で算定し、オンライン診療を行った日は再診料および在宅時医学総合管理料(その診療所等の強化型等の類型、施設等の患者の人数、重症度により点数が異なる)および包括的支援管理等を算定することになる。また後者の場合、4月に対面による訪問診療、5月にオンラインによる診療を行った場合、4月は在宅患者訪問診療料および在宅時医学管理料、5月は再診料および在宅時医学管理料および包括的支援加算を算定する。
 話は前後して申し訳ないが、ほんの2例を上げただけで前回までの複雑な点数制度がオンライン医療という考え方が加わることにより、いかに複雑化したかを少しはお分かりにいただけたのではないか(実際に算定してみればなおさらだと思う)。
 ここで本題に戻るが、そもそも離島などではなく、往診や訪問診療が可能なのにオンライン診療を導入する必要性があるのか。外来診療やオンライン診療が不可能だからこそ、往診や訪問診療を行っているのではないか。今回の改定をきっかけに、複雑な点数制度は元より、我々が連綿と真摯に取り組んできた医療そのものを覆しかねない考え方(オンライン診療やリフィル処方箋等)について真剣に考えてみる必要があると思われる。

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