論壇

ロシアのウクライナ侵攻で高騰する金パラ
5月改定も「逆ザヤ」解消にならず

三郷市  土田 昌巳
 ロシアが2022年2月24日にウクライナへの軍事侵攻を開始。それに対して日本や欧米諸国は経済制裁を強化。ロシアの報復制裁措置によって、豊富な天然資源である原油・天然ガスの供給停止や、それに伴う価格高騰などを引き起こしている。また、ロシアは白金・パラジウム・ニッケルなどレアメタルが豊富な国。中でもパラジウムは世界産出量の4割を占める。パラジウムの用途は8割以上が自動車の排ガス触媒向けで、その他には電気機器のコンデンサ・歯科用合金・半導体メッキなどに使われる。供給の不安からパラジウムは高騰。侵攻前の2021年12月には1gあたり6,770円であったものが2022年3月には1万3,766円の値を付けた。
 金パラは歯科の先生方には馴染み深いと思うが、医科の先生方のために少々補足したい。正式には「歯科鋳造用12%金銀パラジウム合金」。JIS規格で「金の含有量が12%以上、パラジウムの含有量が20%以上、銀の含有量が40%以上」と定められている。保険診療で銀歯をかぶせる場合は金パラ・チタン合金・銀合金の3種類の金属が使用できる。銀合金は金属の値段が安いものの、研磨剤が入った歯磨剤で磨くと表面が削られるなど物性に難があり、適応が限られる。チタンも値段は安いが、鋳造が難しく技工技術に頼るところが大きい。調整時にダイヤモンドバーから火花が飛び散り、なかなか削れてくれないのも悩みの種。ストレスなく調整できて、装着後も安定している金パラは歯科医師の優秀な相棒と言えるだろう。
 具体的な例を提示できないかと、当院の過去6カ月間の技工伝票を調べた。金パラの大臼歯FMC(冠)単独製作は36例ほどあり、使った金属量の中央値2.35g、最小値1.6g、最大値3.9gであった。当院は勤務医が多いため技術的にもバラツキがあり、開業の先生方とは少々事情が違うことを予めご了解いただきたい。2022年4月中旬頃に出入りの歯科業者に金パラ30gの販売価格を問い合わせたところ、税込10万9,230円(1gあたり3,641円)。3.9gのFMCを作ると金属代で1万4,200円、技工代2,200円を合わせて1万6,400円。2022年度診療報酬改定の歯冠修復(材料料含む)は1,562点なので780円の逆ざやになっていた。家賃・人件費・設備費など全く考慮されていない状況には絶望感すらある。
 2022年度診療報酬改定では年4回(4・7・10・1月)の歯科用貴金属価格改定がされることになったが、ウクライナ情勢による価格の急騰を受け、次回7月を待たずに5月に緊急の改定が行われた。金パラの公示価格は1gあたり3,149円から3,413円に引き上げられたが、4月中旬の販売価格にすら追いついていない。
 パラジウムは投機の対象になっており、供給が少なくなるという風評が立てば旺盛な買いが入り値段はつり上がる。市場経済に任せていれば安定供給にはほど遠い。歯科医院が個別に購入するのではなく、国がまとめて買い上げて供給するなどの対応が求められる。もちろん、投機金属を使わない代替え材料の開発も課題であろう。

 協会は改善を求めて要望書を提出
 「金パラ高騰の異常事態への緊急対応を求めます」
 一、2022年1月以降の金パラ実勢価格と保険償還価格の差を補填する緊急対応を行うこと。
 一、対応においては、患者負担増とならない手立てを併せて講じること。
 一、2022年4月以降の制度改善にとどまらず、抜本改善へのさらなる検討を進めること。

 当協会では3月に厚生労働大臣にあてて要望書を提出した。1つ目の要求は5月改定で一定受け入れられたと考える。しかし、金パラの高騰は患者の利益や医療技術の向上に寄与する訳ではなく、売買の差額で大もうけしようとする投機筋の利にしかならないのが悔しい。
 価格が高騰しているため逆ザヤが続いているが、患者の負担もその分大きく増えている。協会が以前から要請しているとおり、抜本的な制度改革が必要であろう。

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