mRNAワクチンの今後の応用と副作用

川口市  石津 英喜
 ごく一部の国を除いて全世界で何十億人もの人々が新型コロナウイルスのmRNAワクチンの接種を受けた。長期的な評価には時間が必要と思うが、mRNAワクチンが一定の成功を収めたといえるであろう。mRNAを利用したテクノロジーの応用範囲は幅広く、次世代mRNAワクチンの開発競争がすでに勃発している。世界の研究者らはmRNAワクチンの次の治療への開発をすすめている。

インフルエンザワクチン
 モデルナは季節性インフルエンザに対抗するmRNAワクチンの開発プログラムを発表している。あらゆるウイルス株に作用する普遍的なワクチンが開発されれば、毎年新しいウイルス株に備えてワクチンを接種する必要がなくなるであろう。

マラリアワクチン
 製薬会社のGSKの研究者が、マラリアに対するmRNAワクチンの特許を申請している。PMIFと呼ばれる寄生虫タンパク質をコードし、マラリアを根絶するための免疫系の訓練を目的としている。mRNAが細胞内に入るとmRNAのコピーが生成されるためごく少量のmRNAを作成するだけで済み、次世代ワクチンとして期待されている。

HIVワクチン
 mRNAによるHIVワクチン候補の第一相臨床試験が、米国内で開始されたと米国立アレルギー感染症研究所が発表した。ワクチンに含まれるmRNAがHIV表面のスパイクたんぱく質をヒトの体内で生成し免疫応答を引き出す仕組みだそうである。

がんワクチン
 一部のがんには正常な細胞にはない抗原やタンパク質が含まれ、これへの免疫力を訓練することでがん細胞を破壊することができるとの発想である。個々人にパーソナライズされた抗がんmRNAワクチンが登場する可能性があり、各患者の腫瘍に対して固有に働くワクチンを設計することができれば、各個人がそれぞれのがんと戦えるように免疫力を鍛えることが理論上可能である。

mRNAワクチンにも多くの課題が存在する
 mRNAワクチンはさらなる可能性へと期待が膨らんでいるのだが、決してよいことばかりではない。疼痛、倦怠感、頭痛、筋肉痛、悪寒、発熱は多くの人が経験した。アナフィラキシーや蕁麻疹、血管性浮腫の頻度は少ないが発生している。欧州医薬品庁は、アストラゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチンの接種を受けた2500万人のうち86人に血栓症が発症し、18人が死亡したと報告した。米疾病対策センターは、mRNA型ワクチン接種後に心筋炎、心膜炎を発症した事例が、ワクチン有害事象報告システムに1000件以上報告され30歳以下の男性に多いと発表した。ワクチン接種により、感染時に抗体依存性感染増強(ADE)が起こることが懸念されている。ADEは、ウイルスが抗体を利用してマクロファージなど食作用を持つ免疫細胞に感染すると症状を悪化させる因子を大量に放出する現象で、抗体を持っているがゆえに本物のウイルスに感染すると激しい反応がおきてしまう。その他の極まれな副反応では、亜急性甲状腺炎、顔面神経麻痺、急性横断性脊髄炎、ギランバレー症候群、ネフローゼ症候群、帯状疱疹などがワクチン接種に伴い発症したとの報告があるが、報告数が少ないため因果関係は不明である。
 未知のウイルスへの恐怖感もあいまって例外的に普及したmRNAワクチンは、パンデミックのような有事には短期開発が可能でその有効性も証明されたといってよいだろう。世界の医療を変えるゲームチェンジャーになりえるmRNA医薬品に期待が膨らむものの、多様な副作用が報告されたのも事実である。
 感染症の制御にはワクチンの貢献は計り知れず、人類は今後もワクチンが必要だが、ワクチンの歴史は副作用の歴史といっても過言ではない。今後も新しいワクチンが出現するとは思うが、その時代に応じて普及と拒絶を繰り返すのであろう。

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