論壇

COVID―19流行下での診療に思う

久喜市  青木 博美
面会の制限で失うもの ― 面会制限の緩和を
 83歳女性患者のお孫さんは苦手だった。声を荒げるわけではないが、しつこくなぜ悪くなっていくのか説明を求めてくる。患者は、悪性リンパ腫末期。がんセンターからもう化学療法の適応ではないと診断があり、緩和治療を行うため紹介入院となった。入院後も日々衰弱していく。
 「こちらに来た時には元気があったのにこの変わりようは何ですか。何があったのか説明してください」「オンラインで面会してもあまり話そうともしなくなったし、やつれていくのが分かるんです。どうしてですか」「悪性のものがもう治療できなくて悪くなっていくということは聞いています。でもこんなにどんどん悪くなっていくのはおかしいのではないですか」延々と続いていく。連日のことでこの時間は辛い。
 死期が近づいてもう1週間以内かなという時、患者を個室へ移しお孫さんの付き添いを許可した。異例ではあったがよしとした。病室では患者の手を握ったり、話しかけたりしていた。患者は相変わらず目をつむって言葉はなかったが、表情は和らいできたように思う。
 1週間も経たずに患者は亡くなった。「ご臨終です」と告げた後、付き添っていたお孫さんより「皆さんにはとても良くしていただきありがとうございました。最期の時に付いていられて良かったです。取り計らっていただいてありがとうございました」と。
 苦手に思っていた人とは別の人がいた。苦言は患者に面会できないためであった。患者と家族のつながりの大切さを示していた。 
 COVID-19の経験もだいぶ積んできた。そろそろ面会制限を緩めて、注意をしたうえで面会をもっとできるようにする時に来ているように思う。

発熱外来 - COVID-19だけではない
 COVID-19の流行で診療スタイルが変わった。まず発熱をチェック。発熱があれば発熱外来、あるいはCOVID-19のチェック。しかし、発熱外来はCOVID-19に焦点を当てているので他のことが手薄になってしまう。
 60代女性、Ⅰ型糖尿病を発症して糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)になって来院。微熱があり発熱外来へ。COVID-19は否定され当日は輸液のみ行って帰宅。2日後に通常の外来を受診し、ここでDKAと診断したが、体重は数日で10㎏近く減少していた。危ないところであった。
 通常の外来であれば見落とすはずのない状態であり、発熱外来がCOVID-19チェック外来となりやすいことの危険性を示している。発熱する病気はCOVID-19だけではない。しっかり患者を診療するという原点を忘れないようにしなければならない。

COVID-19治療 - 易きに流れないように
 COVID-19が明らかになれば、重症化リスク因子のチェックを行う。重症化リスク因子があり、診察で抗ウイルス薬の投与が適切と判断すれば、まずは経口抗ウイルス薬の投与である。モヌラピラビル(ラゲブリオ)とニルマトレビル/リトナビル(パキロビッド)がある。重症化予防効果はモヌラピラビル約3割、ニルマトレビル/リトナビル約9割とされており、効果の差は明らかである。よく効く方の処方が多くて当然と思うが、現状は圧倒的にモヌラピラビルの方が多い。ニルマトレビル/リトナビルは併用禁止、注意薬剤が多いことによる。簡便に処方しやすい方を処方することが多いのであろう。
 処方してみると分かるのだが、実際に患者が服用している薬剤をチェックすると、禁止に該当する薬剤を服用していることは多くなく、また、代替薬剤にしたり、5日間ほど服用しないなどの対応で処方できることがほとんどである。本当に薬効を期待して抗ウイルス剤を出すのであれば少しの手間を惜しまず、患者の利益になることをすべきである。
 抗ウイルス薬は出さなくてもいいが、一応出しておこうというのであれば、患者に抗ウイルス薬は現在は必要がないことを説明する方が良い。ここでも少しの手間を惜しんではならない。

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