論壇
オンライン資格確認システム義務化は撤回を ~リターンズ~
春日部市 渡部 義弘
Ⅰ 初めに
もし道路交通法改正につき、欺くの如き文書が発出されたら世間はどんな反応をするだろう。
「半年後より、総ての公道において乗用可能な車体は自動運転システム搭載車に限る。違反した者は運転免許取り消し処分とする。」その時点では自動運転システム搭載車の10台に4台が不具合を起こし、その生産体制・インフラ整備が全く期限に間に合わず、免許所有者の9割が反対するとしたら。全国規模のデモやストが発生することは必至であろう。
此度のオンライン資格確認システム(以下「オン資」と略す)の導入義務化はそんなイメージである。
Ⅱ 何がいけないのか
現在、資格喪失による返戻は、振替処理が始まり、僅か0.06%とほぼゼロである。お薬手帳は十分普及しており、タイムラグのある他院処方確認では役に立たない。健診情報は一部の診断・治療上必要な患者に健診レポートを持参させれば済む話。
すでに看過できない多数の報告例がある。現在の状態で「義務化」すれば、システム改善の前に現場がダウンする。アジャイルガバナンス原則云々以前の問題。改善に繋がる実証試験が必要だ。オン資義務化と保険証廃止の二重らせん構造でスピーディに本懐を遂げる算段なのか。
「適切な」デジタル化は、医療の効率性・正確性を高めるだろう。IT水準と関係なく、高い臨床能力と患者の信頼を有する者も多く、他の医師では代替できない患者の個別性を理解した医療を展開している。「義務化」により失われる医療資源の大きさ・地域医療への影響を想起すべきである。
「安心安全でより良い医療」はただの呪文。端的に言えばデータヘルス改革における「全国医療情報プラットフォーム」の形成。我々に医療情報をせっせと集めさせ、現在とは比較にならない規模を持つ経済界待望の医療ビジネスという巨大市場を民間企業に提供するということである。安心安全は名ばかりで情報漏洩や生じたトラブルは総て患者と医療機関の自己責任。更にマイナンバーとの紐づけにより社会保障個人会計へまっしぐらだ。自助を前提とした「保障なき社会保障」の幕開けだ。
「義務化」は療養担当規則(省令)のみで施行される。健保法では被保険者証とマイナ保険証は別扱い、保険情報処理方法は限定しておらず、患者は被保険者証提示で医療機関を受診できるとする。デジタル庁の一存による保険証廃止や省令のみの改変によるオン資「義務化」は瑕疵があるとの指摘もある。則ち当問題は法律改正、つまり国会マターであるべきではないだろうか。強行されれば、厚労省は自らの一存で万事「義務化」できる魔術を盤石にしたも同然なのだ。
Ⅲ 終わりに
昨年12月の中央社会保険医療協議会にて日本医師会は厚労省のオン資の概要を無批判になぞっただけの「医療DX推進に向けた日本医師会の対応」を示した。埼玉県保険医協会アンケート調査で「義務化」に反対している者が9割、その中には医師会員が少なからず含まれている。日本医師会上層部は国の医療政策の宣伝部長に成り下がったのか?議論が希薄、結論ありきで進む中、政界・財界の望み通りに現場が強制的に改変されてゆく。進歩ならば異議はないが、余りにお粗末なオン資を見る限り憂慮の念に堪えない。
「医療DX」はアナログからデジタルへの単なる移行ではなく、医療そして社会保障構造を根本から変革するものである。従って拙速は最悪手であり、巧遅の方がまだ許される領域なのである。社会保障には国民の未来がかかっている。医療関係者は新自由主義に染まった医療改革から国民医療を守るべく奮闘する責務を負っていると考える。
もし道路交通法改正につき、欺くの如き文書が発出されたら世間はどんな反応をするだろう。
「半年後より、総ての公道において乗用可能な車体は自動運転システム搭載車に限る。違反した者は運転免許取り消し処分とする。」その時点では自動運転システム搭載車の10台に4台が不具合を起こし、その生産体制・インフラ整備が全く期限に間に合わず、免許所有者の9割が反対するとしたら。全国規模のデモやストが発生することは必至であろう。
此度のオンライン資格確認システム(以下「オン資」と略す)の導入義務化はそんなイメージである。
Ⅱ 何がいけないのか
現在、資格喪失による返戻は、振替処理が始まり、僅か0.06%とほぼゼロである。お薬手帳は十分普及しており、タイムラグのある他院処方確認では役に立たない。健診情報は一部の診断・治療上必要な患者に健診レポートを持参させれば済む話。
すでに看過できない多数の報告例がある。現在の状態で「義務化」すれば、システム改善の前に現場がダウンする。アジャイルガバナンス原則云々以前の問題。改善に繋がる実証試験が必要だ。オン資義務化と保険証廃止の二重らせん構造でスピーディに本懐を遂げる算段なのか。
「適切な」デジタル化は、医療の効率性・正確性を高めるだろう。IT水準と関係なく、高い臨床能力と患者の信頼を有する者も多く、他の医師では代替できない患者の個別性を理解した医療を展開している。「義務化」により失われる医療資源の大きさ・地域医療への影響を想起すべきである。
「安心安全でより良い医療」はただの呪文。端的に言えばデータヘルス改革における「全国医療情報プラットフォーム」の形成。我々に医療情報をせっせと集めさせ、現在とは比較にならない規模を持つ経済界待望の医療ビジネスという巨大市場を民間企業に提供するということである。安心安全は名ばかりで情報漏洩や生じたトラブルは総て患者と医療機関の自己責任。更にマイナンバーとの紐づけにより社会保障個人会計へまっしぐらだ。自助を前提とした「保障なき社会保障」の幕開けだ。
「義務化」は療養担当規則(省令)のみで施行される。健保法では被保険者証とマイナ保険証は別扱い、保険情報処理方法は限定しておらず、患者は被保険者証提示で医療機関を受診できるとする。デジタル庁の一存による保険証廃止や省令のみの改変によるオン資「義務化」は瑕疵があるとの指摘もある。則ち当問題は法律改正、つまり国会マターであるべきではないだろうか。強行されれば、厚労省は自らの一存で万事「義務化」できる魔術を盤石にしたも同然なのだ。
Ⅲ 終わりに
昨年12月の中央社会保険医療協議会にて日本医師会は厚労省のオン資の概要を無批判になぞっただけの「医療DX推進に向けた日本医師会の対応」を示した。埼玉県保険医協会アンケート調査で「義務化」に反対している者が9割、その中には医師会員が少なからず含まれている。日本医師会上層部は国の医療政策の宣伝部長に成り下がったのか?議論が希薄、結論ありきで進む中、政界・財界の望み通りに現場が強制的に改変されてゆく。進歩ならば異議はないが、余りにお粗末なオン資を見る限り憂慮の念に堪えない。
「医療DX」はアナログからデジタルへの単なる移行ではなく、医療そして社会保障構造を根本から変革するものである。従って拙速は最悪手であり、巧遅の方がまだ許される領域なのである。社会保障には国民の未来がかかっている。医療関係者は新自由主義に染まった医療改革から国民医療を守るべく奮闘する責務を負っていると考える。