個別指導をめぐる様々な問題点について、改めて指摘する

上尾市  小橋 一成
はじめに
 基本的な視点として我々が行う医療行為は、保険診療である、ということである。これは、すべての医療行為が、たとえ、最先端の医療行為や学問的に正しいからといって、自由にできるということではない。医師・歯科医師は保険診療の範囲内でしか、医療はできない。そのためには、保険診療とは何か、ということを学ばなければならない。(埼玉県保険医協会が発行した「個別指導対策の要点」を参考にされたい)。そして、保険診療は「療養担当規則」に沿って治療を行わなければならない。「療養担当規則」とは診療上多岐に渡るが、主なものとして、「適確な診断をもととし患者の健康の保持増進を適切に行わなければならない」「診療を行う場合に患者の服薬状況や薬剤服用歴を確認しなければならない」「各種の検査は診断上必要があると認められる場合に行う」、などである。
 そして、もう一つ大切なことは、診療内容を必ず診療録(カルテ)に記載しなければならないということである。例えば、特定疾患診療管理料で、食事・運動・薬について記載がない場合は、この管理料を請求できないだけではなく、カルテ自体の記載がない場合、診療行為がなかった、と判定されても仕方ないかもしれない。
 カルテの記載は、単に個別指導の問題だけではなく、さらにカルテ開示や医療裁判の時に自分を守ってくれるものであるとの認識が必要だ。

個別指導は何を目指すのか
 長い間、現在でも一部そうかもしれないが、個別指導には人権を無視する重大な事態が起きている。これは行政側の人権に対する無理解や知識のなさによるものである。このように法律に基づかない行為が長年続けて行われていた。

法律に基づいて指導を行う
 埼玉県保険医協会では、個別指導の場では保険医の人権を無視するような指導をさせない。そのために長年行政と戦ってきた。そして今日に至るまで一貫して次の方針で臨んできた。
(1)透明性の確保:個別指導の場を密室の協議の場としない。保険医の味方となってくれる弁護士の帯同や録音を実施する。
(2)保険医の権利および人権の擁護:懇切丁寧な教育的な指導を求める。裁量に踏み込むことに反対する。
  また医師・歯科医師の人権を徹底的に守る。
(3)行政責任の明確化:保険診療のルールを講習会などにより周知させる。
(4)法治主義の徹底:厚生局側の法的根拠のない行政裁量に対し行政手続法に則って行うこと。
 埼玉では2017年に「埼玉事例」といって、協会会員が厚生局から「個別指導は行政手続法が適用」「個別指導には質問検査権は有していない」との書面回答を得た。安心して指導を迎えてほしい。最近、保団連と厚労省が個別指導の改善を求めて懇談した。その中で、個別指導の根拠となる健康保険法第73条は行政手続法のもとで行うものである。との表明があった。すなわち、保険医の任意の協力のもとに行う、懇切丁寧な「教育的指導である」これが本来の趣旨である。また、指導内容について、疑問があれば問い合わせれば良いだろう。納得できない内容については、その旨をはっきりと表明すべき。自身の医療内容を向上させる場であるとの意識が必要だ。
 人権を守る長い戦いの中で、弁護士の帯同や録音する権利を勝ち得た。法律に基づいて指導が行われるはずである。ぜひ利用されたい。
 しかし、不正を行えば自らの弁解の余地はなくなる。絶対に不正はしないでほしい。

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