【理事長 抗議要請書】
マイナ保険証システムのトラブルに真摯に向き合い、
保険証廃止法案は廃案とするよう求めます

2023年5月25日
埼玉県保険医協会
理事長 山崎利彦
◆ システムトラブルに真摯に向き合い、調査結果の説明を
 マイナ保険証システム(オンライン資格確認システム、以下本システム)に関わるトラブル事例が連日のように報道、報告されています。登録情報の誤りによる無保険状態、マイナ保険証との紐づけ作業の誤りが報じられるにつれ、資格確認時に別人情報の表示、情報の取り違え、資格情報の未更新などトラブルが生じて当然のシステム運用であることが判明しています。
 私たち医療現場や患者が驚いているのは、システムの維持管理方法の杜撰さよりも、これまでに、デジタル大臣・厚労大臣・総務大臣そして総理大臣を始め、本システムを強く推進してきた関係省庁の責任者や関係者のどなたからも、トラブルの発生構造やエラー発生の可能性が説明されてこなかったことです。これらを無視してシステム推進が審議会や関係機関で審議され、法案として閣議決定がされてきたならば誠に遺憾です。
 一昨日の報道では、加藤厚労相が全保険者に対してエラー事例につながった作業実務の点検を5月23日に要請したとされ、7月末までに結果報告を求めるとしています。しかしながら、登録データの紐づけ作業が遅滞していたことなどを含め、これまでにトラブルや要因について政府内で問題を把握してこなかったのか大いに疑問です。マイナ保険証利用を強く推進し、健康保険証を廃止する法案を提案した内閣や大臣らは無責任です。
 本システムは医療情報の共通基盤になると言われてきたものの、情報の取り違えは医療事故の原因にもなりかねず、対応に忙殺される現場の業務を低下させる事からも「質の高い医療が受けられる」どころではありません。責任の所在を明らかにしてシステム利用におけるトラブル防止策の周知などを行うべきです。少なくとも厚労省による調査の報告を踏まえ本システムの現状を医療関係者や国民に説明することが必要です。保険証法案の審議を継続するのはもってのほかです。

◆ 本システムの推進を支えてきた観念論と「竹槍並」の精神論
 情報の取り違え事件では、相談窓口が国民に周知されていないどころか関係機関のいずれもが、適切な相談窓口を紹介できなかったことが示されました。事件後に政府は相談先を紹介していますが、フリーダイヤルやナビダイヤルなど、発足したばかりの制度の相談窓口体制としてはあまりにも貧弱です。医療界に4月から義務化を求めたマイナ保険証のカードリーダー設置においても、事務手続上の相談窓口の電話はつながらずにチャットボットでの対応を求められたり、機器導入後に不具合が出てもベンダー、業者になかなか電話が繋がらないことが常態化しています。
 国を挙げて新たなシステムの導入や発足を試みる中で、医療関係者や患者、国民を軽んずる設計や計画になっているといえます。医療現場やベンダー業者に相当の費用支援や労力の提供をせず著しい負担を強いるのは、現場に対して「竹槍」精神論で対処を迫っているものと同様です。
 厚労省が保険者に対して指示をしている調査もまた各保険者の労力内で対応できるものか不明です。そもそものスキームが保険者に過剰な負担を強いていることに発生しているきらいもあります。法案では申請を前提とする「資格確認書」を新設し申請勧奨を前提としつつ職権交付まで行うと国会で説明がありますが、現状の保険証発行実務より大幅に業務が増えるのは確実です。
 また、本システムは「これからのデータヘルスの基盤」「質の高い医療提供」に資するという観念やイメージのみを政府や推進者は語るものの、具体施策やビジョンは乏しく、医療関係者に公的な説明会などは行われてきておりません。

◆ 開業医の現場からは多くのトラブル経験の声、保険証存続を求める声
 4月以降、システムに対応する医療機関は増えつつあり、マイナ保険証を利用する患者も微増しています。私どもで実施した会員調査では、システム運用中の開業医の7割以上がトラブルを経験しております。そのうち4割を超える開業医が、システム利用により受付が滞り混雑すると回答しています。原因は患者に対する説明がどこからもされていないことや、データ不一致などによりエラーが発生して滞るなど様々ですが、「受付時間が早くなる」との政府の説明が妄想であると感じる医療機関は少なくありません。エラー時にはマイナ保険証によらず健康保険証によって受付を完了させている報告は多数あります。
 システムに対して信頼がない中、従来からの健康保険証の存続を求める声は圧倒的です。医療情報を活用している開業医も含めて、健康保険証が無くなっては困る、マイナ保険証だけでは困る、という意向が多数です。

◆ 一度立ち止まり、健康保険証廃止は廃案に
 本システムは医療機関や患者、保険者など関係者の現場の声なしに運営していくことはできません。保険証廃止の審議にあたり、政府や厚労省には、保険者に対するエラー事例手続の緊急調査の実施と合わせて、開業医に対しても、システム不具合や保険証存続の意向を聞き取ることなどを求めます。
 現在判明している本システムのトラブルを無視して法案の採決を進めれば、トラブル事例はさらに増え深刻化していくことは容易に想像できます。デジタル施策の実証試験を医療分野で行うことは許されません。一度立ち止まって本システムを国民に改めて説明をすることを求めるとともに、保険証廃止法案は廃案とすることを求めます。
以上

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