国民皆保険制度

川口市 松本 光正
 国民皆保険。これは色々問題を含んでいるが、本質的にはとても良い制度であることは異論の無いところであろう。誰しもなる病気の時や、事故に遭遇したときの高額な医療費の負担を軽くしてくれる制度である。日本では全ての国民が、公的な医療保険に加入することになっており、これが国民皆保険制度と呼ばれている。始まりは1961(昭和36)年、約62年前である。それ以前は国民の3分の1にあたる3,000万人が無保険の状態にあったと言われている。病気、怪我に見舞われることがどんなに怖ろしいか、想像するだけでぞっとする世界である。
 現在の公的医療保険とは次の4つを指す。
 ①職場に勤める人を対象とする職域保険(協会けんぽ、健康保険組合、公務員共済組合等)
 ②自営業などを対象とする地域保険(国民健康保険)
 ③老齢年金受給権者とその家族(退職者医療制度(国保)、特例退職被保険者(社保))
 ④75歳以上の加入者及び65歳以上75歳未満の寝たきり状態等にある加入者(後期高齢者)
 そして民間の生命保険や医療保険に加入していても、必ず公的医療保険に加入しなければならないことになっている。
 その後の経過をみていると、皆保険とは名ばかりに1968年までは一部負担割合は半分、5割負担であった。5割負担はとても高い負担額である。しかし、1973(昭和48)年1月、老人福祉法改正により、70歳以上の方の医療費自己負担が無料になり、これが1983(昭和58)年まで10年間続いたのである。70歳以上という制約があったにせよ、とても素晴らしい時代だったと思う。東京都知事に美濃部亮吉さんが誕生したり、埼玉県では畑和知事が誕生したりと、日本のあちこちに民主化の波が起こってきたことが大きく影響したのではないだろうか。
 しかし、それも長く続かず、無料化が病院のサロン化や社会的入院を生んだなどと、無料化を止めさせたい陣営からの意図的とも思える誹謗中傷が巻き起こり、無料化は中止へ追い込まれた。その後、何回かの改革が行われ、現在の制度に至っている。
 翻って諸外国の医療制度がどうなっているのか調べてみると、決して日本が飛び抜けて良い医療福祉制度を持っているとは言えず、少々がっかりする面がある。イギリス、ドイツでは医療費だけをみると外来診療は無料のようだ。カナダは全額無料のようだ。アメリカの医療費は調べてみる必要は無いほど劣悪である。何人もの友人がアメリカに留学したが、皆口をそろえてその高額さに驚いていた。ここはアメリカでなくて良かったと考え、遠い国を羨むことは止めにしようと思う。日本は、医療事情の悪い国からみるとまだまだ良い方であることは間違いないからである。
 しかし、昨今の従来型保険証の廃止のニュースは一体何なのだろう。正気の沙汰とは思えない状況である。保険証1枚を持っていれば3割負担はあっても、いつでもどこでも安心して医療が受けられるこれは大きな安心である。医療機関にとっても本人の確認がいとも簡単に、まさに一瞥するだけで確認できてしまうのである。これ以上便利なものが有るはずがない。それをマイナンバーカードに組み込むという乱暴狼藉を企画し、それが国民、医療機関双方とも紙保険証より遙かに便利で有るかのような嘘八百を並べ国民を愚弄しようとしている。
 ここで国民、医療関係者が目覚め、一致団結して保険証を存続させなければならないと強く思う毎日である。

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