2023年7月26日
内閣総理大臣 岸田 文雄 殿
厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
総 務  大臣  松本 剛明  殿
デジタル大臣 河野 太郎 殿
埼 玉 県 保 険 医 協 会
        理事長 山 崎 利 彦
オンライン資格確認システムの運用は一時凍結を求めます

    ~マイナ保険証で資格確認ができず「10割負担」を回避する通知は、現場では実施困難~

健康保険証は存続を -  国民皆保険制度が成り立ちません

 7月10日、厚労省から「マイナンバーカードによるオンライン資格確認を行うことができない場合の対応について」が通知されました。
 マイナ保険証では患者の保険資格が確認できない場合の対応が示されたものですが、従来からの定めである療養担当規則第3条「受給資格の確認」に違反する内容を含み、また、医療現場における運用が困難であることや、現行の審査支払方式に照らして疑問点が多々見られるものです。新設の「被保険者資格申立書」は患者と医療機関との間で信頼関係を壊しかねず、医療現場が取り扱うことは困難なものです。

 患者に10割負担を求めず、かつ医療機関側には医療費の未収金が発生しないための方途として、示された通知ですが、大変に酷い内容です。医療現場の実情からすると全く評価ができないものです。
 これらは、健康保険証によって目視で資格確認をしていれば必要なかった問題でした。保険制度に変更があったわけでもないのに、急遽、厚労省の保険局長自らがこのような通知によってさらに医療現場を混乱させていることは極めて特殊な事態で、遺憾極まりないものです。
 
・マイナ保険証による資格確認システムは一時凍結を - 混乱収束が政府の役割
 医療現場の窓口におけるこれ以上の混乱を避け、患者や医療機関に不毛な労力が課されないためにも、私たちはこの通知の凍結とそもそもの混乱の要因となっているマイナ保険証によるオンライン資格確認システムの運用(療養担当規則の一部)を一時凍結することを求めます。

 通知を発行した伊原和人保険局長は、医療現場における実践をどのように見通しているのか、どのように関係団体の了解を取り付けたのかを医療現場に説明をするべきです。説明もなしに、困難な通知を医療現場に強いることは許されません。

 そもそも、療養担当規則違反の内容や現場で実践が困難な内容を羅列した保険局長通知が発行されるのは、マイナ保険証によって資格確認を完結させることを、関係大臣ら政府が正当化しているためです。しかし、マイナ保険証による資格確認システムは、推進してきた政府の準備の怠りによって、当初の想定を超えてシステムトラブルやエラーが露見してしまっています。
 もはや、現行の健康保険証の持参を国民に訴えて、受付における混乱や新たなトラブルが回避されるような施策を示すことが、医療保険制度を統括する厚労省の役割であり、国民皆保険制度を堅持する政府の役割であるはずです。政府や厚労省には現状を収束させる責任があります。
◆ 通知発出のきっかけと経過 政府が招いたトラブルを医療機関や患者に転嫁
 私たち保険医協会や全国保険医団体連合会(保団連)による医療機関アンケートで、患者に「10割負担」を求めざるを得ない事例が全国で散見され(1291件、6月19日発表)、政府は姑息にも、医療機関の運用マニュアルを唐突に変更し、さらに具体的な対処方法の詳細を「8月までに示す」と国会や衆議院の閉会中審査の中で説明していたものでした。

 通知が求めている主な問題点は次のとおりです。
① 初診時や転職後には健康保険証を一緒に持参することを呼びかけたり、問診時などに本人確認を改めて行うことなどとしています。マイナ保険証ではトラブルを回避できず、健康保険証による受診が最善であると政府が認めているに等しいものです。
② マイナ保険証の受付で「無効・資格情報なし」や機器等トラブルで資格が確認できない場合には、患者のスマートフォンにて患者のマイナポータルの資格情報画面から保険資格確認をすることや、健康保険証での資格確認をするとしています。マイナポータルから資格確認等を行うことは大変煩雑です。このいずれでも資格確認ができない場合に、この「被保険者資格申立書」を医療機関から患者に取り付けさせた上で、患者自己負担分(3割等)を受領するとされています。
③ 新設の「被保険者資格申立書」は、政府のシステムを善意に信用してマイナ保険証により資格確認を行おうとした患者に対して、医療機関が政府に代わってお詫びをしながら記載を求めることになります。医療機関側にとっても患者にとっても大変に不本意なものです。
 しかも、書式内容において記載を求める、4情報(名前、生年月日(年齢のみ)、性別、住所)だけで患者自己負担は確定できない上、保険証の交付時期などを患者本人の記憶にのみ頼る方法では誤りが出ることは明らかです。
④ また、申立書を書いた患者には、医療機関が、後日に保険資格内容を電話で確認することが求められており、確認が得られなかった場合には、「患者に連絡を行った日付」をレセプトに記載することが求められています。大変煩雑です。「医療機関には事務的対応以上のご負担はおかけしないようにする」(7月10日局長通知)とはよく言えたものです。
 保険者名が特定できなかったレセプト請求については、審査機関において、4情報をもとにして、加入する保険者が特定されるとしていますが、作業の難易性から報酬の支払までの期日の約束が示されていません。また、厚労省ではこのような請求が今後、どの程度生じるかの予測を立てられておらず、実務上の体制もとられていないことが保団連の聞き取りで明らかになっています。

 患者にとっても、医療機関にとっても、支払側にとっても、実務的に大変に無理がかかっていることがわかります。これらの対応は、医療機関や患者の瑕疵でなく、医療機関に義務を課し政府が運営するシステムのトラブル等で資格確認が不能であったために求められているものです。政府のシステムの後処理を医療機関や患者に転嫁するようなことなど絶対に認められません。

◆ 医療機関に局長通知で療養担当規則の違反を求める矛盾
 口頭などによる情報のみで、資格確認作業を暫定的に承認することは現行の医療保険制度の仕組みからは考えられないものです。療養担当規則第3条「受給資格の確認」では保険医療機関は「資格を確認しなければならない」とあり、これに反する行為を保険医療機関に厚労省が求めているといえます。療養担当規則に沿って運営を徹底するならば、資格確認システムを凍結し健康保険証によって資格確認を徹底する他ありません。
 療養担当規則によって資格確認システムへの参加を義務化とし、違反があれば個別指導に選定したり、保険医療機関の指定取り消しもあり得る、と説明してきたのは厚労省自身です。局長通知は恣意的な運用が過ぎます。

◆ 保険証は必ず存続を 保険証がなければ国民皆保険制度は毀損することが明白に
 今回の事務通知は、健康保険証の重要性を再確認する機会となりました。現状では、健康保険証によって資格確認を行えば問題は一切生じません。政府の資格確認システムは、この様な問題の全てを解決することは困難とみられます。来年秋に現行の健康保険証を廃止することは国民の健康と命を脅かすものといえます。保険証廃止する法律は可決されましたが、健康保険証を存続させることを、政府や国会の関係者に求めるものです。
以上

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