論壇

自動車運転と薬
運転禁止薬剤処方、あらためて注意を

久喜市 青木 博美
ある患者の交通事故と免許返納、転院
 「ぼーっとしていて電柱に衝突してしまった。なぜぶつかったのか良くわからない。怖くなったので免許証は返納しました。この病院へは通ってこれないので紹介状をお願いします」七四歳になって間もなくの女性。高血圧症、糖尿病、認知症(記銘力障害)、過活動膀胱、睡眠障害の病名で治療中。一六年前に「記憶が途切れることがある。一分も記憶がもたない。家の近くで運転していて道が分からなくなってしまった。アルコールを沢山飲んでいたせいでしょうか」などと言われたことがあった。この時は検査をしてみたところ、梗塞は起こしていなかったものの右中大脳動脈が閉塞していた。その後は段々と症状が改善して問題なく生活ができるようになっていった。今回は何かあるのだろうか。

いろいろな薬物を服用していたのだが
 脳については新たな問題は起きていないようであった。低血糖やてんかん発作でもない様子。多数の薬剤を服用しているのでその影響はないだろうか。降圧薬、インスリンを含む糖尿病治療薬、認知症治療薬、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬、抗コリン薬、抗血小板薬など多数の薬剤を服用している。ポケット医薬品集南山堂であたってみると、いろいろ引っかかる。
 添付文書には運転禁止と書いてあるものが多くある。注意、慎重にと書いてあるものはもっと多くある。ベンゾジアゼピン系薬剤:車の運転、機械の操作をしない。アリセプト:車の運転、危険な機械操作は禁止。
 降圧薬や糖尿病治療薬には車の運転、高所の作業に注意あるいは慎重になどとなっている。運転禁止、注意、慎重にと書いてある薬剤を複数服用して運転していたことになる。これはどうなるのだろう。
 ネットで見ると運転禁止とある薬物を服用しての運転はアルコールを飲んでの運転と同じと書いてあるものもある。アルコールの場合は運転すると分かっておる人にアルコールを提供してはいけないことになっている。運転禁止薬剤をアルコールと同様に考えると処方するということは問題になるのだろうか。

道路交通法では
 添付文書には、運転禁止と書いてあるものは多くあるのだが、治療上の必要があり処方することは多い。この場合、運転はできないのかというと、道路交通法では「正常な運転ができないおそれのある状態で車両等を運転してはならない」となっている。抗てんかん薬や向精神病薬についても以前は服用者は運転禁止となっていたが、現在は良好にコントロールされていれば運転できるとなっている。
 ある薬剤を服用していれば運転できないということはないようだが、運転に支障をきたさない良好なコントロールが求められている。

十分な注意を払う、代替可能な薬剤があれば変更しておく、患者へは注意を喚起する
 薬剤と運転能力との関係はどうなっているのだろうか。眠気を誘発、脱力や認知、作業能力の低下、血圧低下や低血糖等々いろいろ運転能力が低下することはある。運転禁止となっている薬剤は多くの種類がある。抗アレルギー剤などは分かりやすい。その他にも、総合感冒薬、ジクロフェナク、SG配合顆粒などの鎮痛剤、エペリゾンなどの筋弛緩薬、プレガバリン、ミロガバリンなどの神経障害性神経痛治療薬、メトクロプラミドなどの鎮吐剤、デキストロメトルファンなど鎮咳剤等々。花粉症の季節には抗アレルギー薬を求める方が多いが、運転に影響がないことになっている薬剤を選んで処方するようにしている。処方する場合には代替薬剤があれば、運転禁止となっていない薬剤を選択するのがよいだろう。代替薬剤がない場合は患者さんへ注意を喚起することと、運転に支障をきたさないように処方も工夫することが必要になってくる。

安全な移動手段を世の中としても整備していく必要がある
 処方の工夫だけでは対応しきれないこともある。その人にとっての安全な移動手段を考えてみる、あるいは移動しなくても済む方法を考えてみることも必要になってくる。社会としても整備が必要。暮らしやすい社会づくりが求められている。

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