コロナ後に起こりえる、医療介護の崩壊危機

川口市 石津 英喜
 政府はせき止め薬などの在庫がひっ迫しているとして、医療機関に対し処方を最小限にとどめるよう要請した。数年前に某ジェネリック医薬品会社が粗悪な医薬品を製造したことから始まったとの見方もあるが、保険薬価を低くしすぎたため、工場をまわしても儲けがないので製造できないという事態であり、政府が引き起こした薬品不足だ。咳止め、去痰剤、感冒薬、抗生剤の一部などが処方箋では在庫がなく出せなくなっている。政府は軽症者は保険診療ではなくセルフメディケーションと称して自分で薬を買えと言いたいところ、本音を言わず頑張っているふりをしている。ちょっとした発熱程度で医療機関を受診できないようにするのは、発熱外来の混乱を回避するのに一理はあるが、COVID-19に乗じたOTC(Over The Counter)医薬品の促進、保険外しへの誘導だ。
 2025年は団塊の世代が七五歳以上となり、世界にも類がない超高齢社会に突入する年となっている。この2025年問題が、医療業界や介護・福祉業界、そして社会保障制度にも大きな影響をもたらすことになるのは明白である。介護業界では近年多数の事業所が閉鎖している。コロナ禍の3年間は相次ぐサービスの利用控えで経営の悪化を招き、人材の確保や定着をさらに難しくさせた。介護報酬は一定程度しか入ってこない中、物価高により経費がかさみ、中小規模が多い介護事業者の体力がどんどん減退した。事業を続けたいのにやむをえず倒産してしまうケースが多い。介護保険を利用したいのに、ケアマネが見つからなくて介護をうけられないという声もきこえてくる。
 医療界でも、コロナ禍により患者の行動も大きく変化した。受診控えで外来や入院を手控えていた患者が今後戻るかは不透明な情勢である。収入減少をきっかけに廃業や倒産にいたる医療機関の報道をたびたび耳にする。医師の働き方改革も進められており、残業時間を減らすことが宿命で、増える需要に医師の確保の対応ができず、必要な医療を供給できない事態も起こりえる。
 COVID-19への対応について、政府は2023年10月からは「冬の感染拡大に備えた重点的・集中的な入院体制の確保等」の時期とし、2024年4月からは「通常の対応への完全移行、恒常的な感染症対応への見直し」を目指すとしている。
 入院患者の受け入れに備える「病床確保料」としての補助金は、2023年5月からすでに減額されていたが、さらに10月からは「酸素投与や人工呼吸器が必要な患者のための病床を確保した場合」に限るとし、感染状況が一定の基準を超えるまでは支給されない。手厚い点数を付けてきた診療報酬の各種の特例措置についても見直しが行われ縮減されている。COVID-19に感染した入所者を施設内で療養する高齢者施設への支援も感染者一人当たりの補助が半減するという。2024年4月からは、各種の補助金や診療報酬の特例もなくなるのでないだろうか。コロナ関連補助金の打ち切り後の影響を危惧する声は大きい。
 COVID-19の収束が見えないうちに現場の深刻さに見向きもせず、財務省は次回改定に向けて、すでに診療報酬引き上げに慎重な議論を求めている。全国的に「現在の診療報酬では成り立たない」という声が、医療介護で上がっている。2024年は6年に一度の医療・介護・障害福祉サービスのトリプル改定だ。医療機関は、診療報酬改定への対応や、消費税、地域医療構想・診療報酬誘導に基づく機能分化への対応、働き方改革による生産性向上・人材確保の必要性、物価高・光熱費高騰など、様々な経営課題に直面している。
 政府・厚労省には人件費や物価水準に見合った診療報酬引き上げと、補助金の継続を今すぐにでも行ってほしい。今これだけ高齢化している中で、高齢者にとっても家族にとっても医療介護は社会的に重要なインフラとなっている。そうしたところが崩壊してしまわないような経営上の支援策を早く適切に講じなければ、セーフティーネットとして機能している医療・介護施設がどうなるのか本当に厳しい状態だ。

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