論壇
2024年診療報酬改定を迎えて、改めて診療報酬を考える
春日部市 渡部 義弘
Ⅰ.初めに
診療報酬改定を迎える時期となった。各論的・具体的内容はこれからの議論であり霧中であるが、今回の改定では、「実施時期」・改定作業形式・改定説明会などにつき大きな変化が策定されている。本稿では従前からの診療報酬改定の問題点、次いで今次の変化について俯瞰していきたい。
Ⅱ.未だ解決・実現しない要求
診療報酬は小泉改革以降ざっと20年間、実質マイナス改定が相次ぎ、積算マイナスが10%以上である。医療界から診療報酬の旧来レベルへの復旧が毎回要望として出されるものの、未だ実現しない。医療費亡国論を根拠にした、財政における医療費削減はもはや強迫観念的である。またその思想はメディア等を介して深く国民に浸透し、診療報酬はマイナスが当然という世論形成がなされている。更に本来、社会福祉税だった筈の、消費税はほとんど機能不全である。この度の防衛予算増額や少子化対策の財源では税収の観点からの議論が主であるが、「無駄な」歳出の削減も要求される。改定の度「無駄が多い」と一刀両断に削減され続けた医療費がターゲットになるのは明々白々であろう。
言う迄もなく診療報酬は医療機関にとって「経営原資」であり、昨今の人件費・諸物価・光熱費高騰等により医療機関にとって診療報酬マイナス改定は、更に事態を悪化させる。医療の質を落とさず、或いは上げることを要求しながら、そのための原資を削減する。社会共通資本である国民皆保険制度に基づく医療を後退させ、営利が最優先の企業が行うような医療に転換させてはならない。必要な医療行為が安全に、十分行き届くためにはそれに見合った報酬が必要なのだ。
Ⅲ.今回の改定で予定される変化
今回はまた「診療報酬改定DX(デジタルトランスフォーメーション)」の冠も載せられ、実施時期は6月となることが予定されている。2カ月の後ろ倒しとは言うものの、薬価改定・介護報酬改定・告示・通知・経過措置などは、従来のスケジュール通りの想定となっている。診療報酬のマイナスをイメージしにくいように診療報酬改定を、「本体」部分と「薬価」部分に分割して発表してきたが、両者の改定実施がずれると、より一層診療報酬のネットマイナスを「隠蔽」し易くなるだろう。
改定等に伴う電子カルテ・レセコンシステムの改修に必要なコストや手間を省き、簡便な更新が可能として厚労省が医療機関に導入を進める「共通算定モジュール」は改定内容を反映し、電子カルテ等にオンラインで読み込まれるようにするものだが、その内容を理解する説明会や「見え消し」資料(どう変わったか理解しやすい)などは省略される可能性があり、今まで以上に改定内容の理解が不十分なまま、ベンダー・電子カルテ・レセコンシステム任せの診療を行うことになりかねないという懸念がある。
医療従事者のために2カ月の「周知期間」が追加されるという話では全くないようである。改定内容の理解はむしろ後退さえする可能性がある。算定要件や、摘要欄記載等電子カルテ・レセコンの入力作業がより細かく要求されるようになることも想定される。さらに大きな問題は、オンラインに対応していない医療機関では改定内容を知ることができなくなることだ。正しい請求が不可能になれば、廃業に追い込まれかねない。「オン資」の悪夢の再来だ。
Ⅳ.終わりに
医療DX(診療報酬改定DX含む)は国民医療内容の充実を軽んじ、医療ビッグデータの形成や営利目的の利活用を行う関連企業の利益誘導、医療という「金のなる木」を都合よく育てようとする経済施策に他ならない。医療現場が蹂躙され、国民皆保険制度の存亡の機を迎えることになりかねない状況を生み出している。国民(患者)はもちろんだが、医療従事者にも不本意な医療提供とならないために、診療報酬改定の行く末を案じるべきであろう。
国民(患者)の自己情報コントロールが効かないまま、また医療現場のトラブルが続くままの医療DX(診療報酬改定DX含む)は、なし崩し的に進めるべきではない。
診療報酬改定を迎える時期となった。各論的・具体的内容はこれからの議論であり霧中であるが、今回の改定では、「実施時期」・改定作業形式・改定説明会などにつき大きな変化が策定されている。本稿では従前からの診療報酬改定の問題点、次いで今次の変化について俯瞰していきたい。
Ⅱ.未だ解決・実現しない要求
診療報酬は小泉改革以降ざっと20年間、実質マイナス改定が相次ぎ、積算マイナスが10%以上である。医療界から診療報酬の旧来レベルへの復旧が毎回要望として出されるものの、未だ実現しない。医療費亡国論を根拠にした、財政における医療費削減はもはや強迫観念的である。またその思想はメディア等を介して深く国民に浸透し、診療報酬はマイナスが当然という世論形成がなされている。更に本来、社会福祉税だった筈の、消費税はほとんど機能不全である。この度の防衛予算増額や少子化対策の財源では税収の観点からの議論が主であるが、「無駄な」歳出の削減も要求される。改定の度「無駄が多い」と一刀両断に削減され続けた医療費がターゲットになるのは明々白々であろう。
言う迄もなく診療報酬は医療機関にとって「経営原資」であり、昨今の人件費・諸物価・光熱費高騰等により医療機関にとって診療報酬マイナス改定は、更に事態を悪化させる。医療の質を落とさず、或いは上げることを要求しながら、そのための原資を削減する。社会共通資本である国民皆保険制度に基づく医療を後退させ、営利が最優先の企業が行うような医療に転換させてはならない。必要な医療行為が安全に、十分行き届くためにはそれに見合った報酬が必要なのだ。
Ⅲ.今回の改定で予定される変化
今回はまた「診療報酬改定DX(デジタルトランスフォーメーション)」の冠も載せられ、実施時期は6月となることが予定されている。2カ月の後ろ倒しとは言うものの、薬価改定・介護報酬改定・告示・通知・経過措置などは、従来のスケジュール通りの想定となっている。診療報酬のマイナスをイメージしにくいように診療報酬改定を、「本体」部分と「薬価」部分に分割して発表してきたが、両者の改定実施がずれると、より一層診療報酬のネットマイナスを「隠蔽」し易くなるだろう。
改定等に伴う電子カルテ・レセコンシステムの改修に必要なコストや手間を省き、簡便な更新が可能として厚労省が医療機関に導入を進める「共通算定モジュール」は改定内容を反映し、電子カルテ等にオンラインで読み込まれるようにするものだが、その内容を理解する説明会や「見え消し」資料(どう変わったか理解しやすい)などは省略される可能性があり、今まで以上に改定内容の理解が不十分なまま、ベンダー・電子カルテ・レセコンシステム任せの診療を行うことになりかねないという懸念がある。
医療従事者のために2カ月の「周知期間」が追加されるという話では全くないようである。改定内容の理解はむしろ後退さえする可能性がある。算定要件や、摘要欄記載等電子カルテ・レセコンの入力作業がより細かく要求されるようになることも想定される。さらに大きな問題は、オンラインに対応していない医療機関では改定内容を知ることができなくなることだ。正しい請求が不可能になれば、廃業に追い込まれかねない。「オン資」の悪夢の再来だ。
Ⅳ.終わりに
医療DX(診療報酬改定DX含む)は国民医療内容の充実を軽んじ、医療ビッグデータの形成や営利目的の利活用を行う関連企業の利益誘導、医療という「金のなる木」を都合よく育てようとする経済施策に他ならない。医療現場が蹂躙され、国民皆保険制度の存亡の機を迎えることになりかねない状況を生み出している。国民(患者)はもちろんだが、医療従事者にも不本意な医療提供とならないために、診療報酬改定の行く末を案じるべきであろう。
国民(患者)の自己情報コントロールが効かないまま、また医療現場のトラブルが続くままの医療DX(診療報酬改定DX含む)は、なし崩し的に進めるべきではない。