論壇
診療報酬に点数単価変更をもちこませるな
~こっちの水は甘いか?~
春日部市 渡部 義弘
♪ほ・ほ・ほーたるこい。あっちのみーずはにーがいぞ。こっちのみーずはあーまいぞ……。今般、医師の「偏在問題」解決のためと称し、以前から燻っていた診療報酬の「地域別単価」導入を財務省が提言し、これを受けて武見敬三厚労相も「思い切った手立てが必要」と発言した。医師の「偏在」は確かにあるが、根源的な問題の所在は「絶対数の不足」にあることは知る人ぞ知るである。
2020年、COVID-19により医療機関が大打撃を受けたことは記憶に新しい。これに対し損失補填の手段として、2021年5月財政制度等審議会建議の中で、「概算払い」に欠ける「診療行為への対価性」を保持するため補正係数による補填方法が提案された。また、同年11月8日、財務省の診療報酬の議論資料の中で「……1点単価が10円で固定されていることやその単価補正が行われないことが、診療報酬が本来備えている調整手段をいたずらに放棄し、政策面での対応力を損ねていないか、検証する必要がある」とある。この発想は直近では地域別点数単価にとどまらず、診療科別点数単価にまで言及されるようになっている。
さて通常保険診療分の総費用はシンプルに考えると「個別保険点数」(mi)×「当該点数の全医療機関における算定回数」(ni)の総和×10(Σmi×ni×10)円である。「地域における個別保険点数に対する算定回数」(nij)に対し「地域別点数単価」(Pj)を設定すれば総費用はΣ(mi×nij×pj)となり、個別の保険点数を変更しなくても点数単価を任意に調整すれば、総医療費をコントロールすることが可能になっていく。「偏在問題」に乗じて、地域別単価を医療費抑制に転用する可能性は否定できない。
ちなみに令和3年度の国民医療費は昨年10月に厚労省の出した「国民医療費の概況」によれば45兆359億円である。基本的に国民医療費は保険点数を基礎にした保険診療分であるのでざっくりとした試算ではあるが、政府統計ポータルサイト(e-Stat)にある令和3年度都道府県別医療費を併せて参考にすると、医療費上位5都府県の単価を9円とし、下位五県の単価を15円にすることで医療費は約2%(9,197億円)も抑えられるのだ。
更に同様にして診療科別や医療行為別に点数単価を定めることも可能である。診療報酬の共通算定モジュールに組み込めば、個別保険点数の変更を全く行わずに、医療費が伸びている地域・診療科の医療費は思い通りに抑えられるのである。単価操作は患者負担にも影響する。国民皆保険に一物多価を導入することになるのだ。境界地域で大規模な患者の移動も起こりうることは考慮されているだろうか。
一定期間魅力的な点数単価引き上げを受けたエリアでは開業医の参入が想定されるが、「偏在問題」が解決した時点で、突然急激な引き下げを受けた時何が起こるか。点数単価は頻回に変更できるが、大規模なチェーン展開をしない限り、それに合わせていい条件を求めて医療機関は頻回に開廃業などできないし、できるとしても患者に対して無責任である。昨今の医療行政の強硬ぶりを見れば、最悪の場合、「偏在問題」解決時点で全国の単価を引き下げることすら在り得ないと言えない情勢である。「医師の偏在・診療科の偏在」の対策として診療報酬において点数単価を導入・操作することがあってはならない。
「点数単価」決定権者は、残念ながら昨今の政治や中医協の審議を見れば、医療界ではないことを知る必要性がある。「点数単価」の変更が新たな医療の統制に悪用されることは必至である。これからも常態的・個別的調整機能を発揮するツールを、診療報酬には絶対持ち込ませてはならない。甘い水に誘われないようにしたいものである。
2020年、COVID-19により医療機関が大打撃を受けたことは記憶に新しい。これに対し損失補填の手段として、2021年5月財政制度等審議会建議の中で、「概算払い」に欠ける「診療行為への対価性」を保持するため補正係数による補填方法が提案された。また、同年11月8日、財務省の診療報酬の議論資料の中で「……1点単価が10円で固定されていることやその単価補正が行われないことが、診療報酬が本来備えている調整手段をいたずらに放棄し、政策面での対応力を損ねていないか、検証する必要がある」とある。この発想は直近では地域別点数単価にとどまらず、診療科別点数単価にまで言及されるようになっている。
さて通常保険診療分の総費用はシンプルに考えると「個別保険点数」(mi)×「当該点数の全医療機関における算定回数」(ni)の総和×10(Σmi×ni×10)円である。「地域における個別保険点数に対する算定回数」(nij)に対し「地域別点数単価」(Pj)を設定すれば総費用はΣ(mi×nij×pj)となり、個別の保険点数を変更しなくても点数単価を任意に調整すれば、総医療費をコントロールすることが可能になっていく。「偏在問題」に乗じて、地域別単価を医療費抑制に転用する可能性は否定できない。
ちなみに令和3年度の国民医療費は昨年10月に厚労省の出した「国民医療費の概況」によれば45兆359億円である。基本的に国民医療費は保険点数を基礎にした保険診療分であるのでざっくりとした試算ではあるが、政府統計ポータルサイト(e-Stat)にある令和3年度都道府県別医療費を併せて参考にすると、医療費上位5都府県の単価を9円とし、下位五県の単価を15円にすることで医療費は約2%(9,197億円)も抑えられるのだ。
更に同様にして診療科別や医療行為別に点数単価を定めることも可能である。診療報酬の共通算定モジュールに組み込めば、個別保険点数の変更を全く行わずに、医療費が伸びている地域・診療科の医療費は思い通りに抑えられるのである。単価操作は患者負担にも影響する。国民皆保険に一物多価を導入することになるのだ。境界地域で大規模な患者の移動も起こりうることは考慮されているだろうか。
一定期間魅力的な点数単価引き上げを受けたエリアでは開業医の参入が想定されるが、「偏在問題」が解決した時点で、突然急激な引き下げを受けた時何が起こるか。点数単価は頻回に変更できるが、大規模なチェーン展開をしない限り、それに合わせていい条件を求めて医療機関は頻回に開廃業などできないし、できるとしても患者に対して無責任である。昨今の医療行政の強硬ぶりを見れば、最悪の場合、「偏在問題」解決時点で全国の単価を引き下げることすら在り得ないと言えない情勢である。「医師の偏在・診療科の偏在」の対策として診療報酬において点数単価を導入・操作することがあってはならない。
「点数単価」決定権者は、残念ながら昨今の政治や中医協の審議を見れば、医療界ではないことを知る必要性がある。「点数単価」の変更が新たな医療の統制に悪用されることは必至である。これからも常態的・個別的調整機能を発揮するツールを、診療報酬には絶対持ち込ませてはならない。甘い水に誘われないようにしたいものである。