論壇
2024年歯科診療報酬改定に思う
三郷市 土田 昌巳
2024年診療報酬改定の全体の改定率はプラス0.88%。そのうちの0.61%が賃上げ対応分のベースアップ評価料の財源。その分を除くと実質0.27%と厳しい改定になった。そもそも診療報酬は保険診療の医療行為等の対価であり、歯科衛生士、歯科技工士、歯科業務補助者の賃金を目的とするものではない。厚労省も無理筋だと思ったのかホームページには「患者さん向けのベースアップ評価料のご案内」という文章がアップされている。これを印刷して待合室に貼れば無事解決というスタンスだろう。そこには「産業全体で賃上げが進む中、医療現場で働く方々の賃上げを行い、人材確保に努め、良質な医療提供を続けることができるようにするための取組です。ご理解くださいますよう、お願い致します」と書かれている。理屈ではなく心情に訴えかけている様に思える。
改定前にベースアップ評価料を算定するように歯科医師会などから働きかけがあったものの、実際は2割程度の歯科医療機関しか算定していない。下世話な週刊誌なら「歯医者に安くかかる方法」と見出しをつけて「ベースアップ評価料を算定しない8割の歯科医院にかかれば診療費が安くなる」と書くのではないか。診療報酬で医療行為ではない賃上げ分を紐づけする矛盾は誰でも少し考えればわかること。簡単に揚げ足を取られるような改定ではなく、物価高騰に見合う診療報酬の大幅な引き上げ、点数の付け替えではなく低医療費政策の転換が必要ではないだろうか。
目的外利用のベースアップ評価料に次いで、今回の改定の特徴は「複雑化」ではないか。基本診療料に対する加算である外来環は廃止され、歯科外来診療医療安全対策加算(外安全)と歯科外来診療感染対策加算(外感染)に分離された。それぞれに施設基準が設けられ、届出が必要。受講する研修も外安全では医療安全対策に係る研修、外感染では歯初診の届出が必要であり、歯初診は院内感染防止対策に係る研修の受講が必要。届出の労力は倍になったが、点数は初診加算の場合は外来環23点が外安全1(12点)+外感染1(12点)となり1点プラス。再診も1点のプラスでしかない。財源を投入せずに枠内で付け替えている。仕組みの複雑化が加速していけば、届出の未提出、必須講習の未受講などのうっかりミスが増えることも想像できる。会員懇談会で出された会員の意見の中に「良く分からないから算定は控える」というものがあった。複雑化は歯科開業医の意欲すら摘み取ってしまう。
CAD/CAM冠は、CAD/CAM冠用材料(Ⅲ)の適応が拡大された。適応症が広がるのは良いことであるが、しっかりと複雑化してきた。六、七番に装着する場合は「装着部位の対側に大臼歯による咬合支持がある」「装着部位と同側の大臼歯による咬合支持がある」「装着部位の同側に大臼歯による咬合支持はないが、近心側隣在歯までの咬合支持があり、対合歯が欠損である」という算定要件とともにレセプト摘要欄記載が義務付けられた。同月に複数のCAD/CAM冠装着すると1枚のレセプトで6~8行の記載となる場合があり、手書きレセプトの場合の事務負担は過酷である。個人的にこれを単純化するなら「6、7番にCAD/CAM冠を適用する場合は対合歯とのクリアランスが十分あり、支台歯の歯冠長が確保できるもの」だけで良いと思う。悪名高いクラウン・ブリッジ維持管理料の2年間は再製作の費用を医院が負担する縛りもあるので、従前の要件を満たしたとしてもクリアランスが十分取れないCAD/CAM冠の製作には抵抗がある。
低医療費政策の転換とともに、複雑怪奇な診療報酬をシンプルにしていく運動が必要だと改めて思う。
改定前にベースアップ評価料を算定するように歯科医師会などから働きかけがあったものの、実際は2割程度の歯科医療機関しか算定していない。下世話な週刊誌なら「歯医者に安くかかる方法」と見出しをつけて「ベースアップ評価料を算定しない8割の歯科医院にかかれば診療費が安くなる」と書くのではないか。診療報酬で医療行為ではない賃上げ分を紐づけする矛盾は誰でも少し考えればわかること。簡単に揚げ足を取られるような改定ではなく、物価高騰に見合う診療報酬の大幅な引き上げ、点数の付け替えではなく低医療費政策の転換が必要ではないだろうか。
目的外利用のベースアップ評価料に次いで、今回の改定の特徴は「複雑化」ではないか。基本診療料に対する加算である外来環は廃止され、歯科外来診療医療安全対策加算(外安全)と歯科外来診療感染対策加算(外感染)に分離された。それぞれに施設基準が設けられ、届出が必要。受講する研修も外安全では医療安全対策に係る研修、外感染では歯初診の届出が必要であり、歯初診は院内感染防止対策に係る研修の受講が必要。届出の労力は倍になったが、点数は初診加算の場合は外来環23点が外安全1(12点)+外感染1(12点)となり1点プラス。再診も1点のプラスでしかない。財源を投入せずに枠内で付け替えている。仕組みの複雑化が加速していけば、届出の未提出、必須講習の未受講などのうっかりミスが増えることも想像できる。会員懇談会で出された会員の意見の中に「良く分からないから算定は控える」というものがあった。複雑化は歯科開業医の意欲すら摘み取ってしまう。
CAD/CAM冠は、CAD/CAM冠用材料(Ⅲ)の適応が拡大された。適応症が広がるのは良いことであるが、しっかりと複雑化してきた。六、七番に装着する場合は「装着部位の対側に大臼歯による咬合支持がある」「装着部位と同側の大臼歯による咬合支持がある」「装着部位の同側に大臼歯による咬合支持はないが、近心側隣在歯までの咬合支持があり、対合歯が欠損である」という算定要件とともにレセプト摘要欄記載が義務付けられた。同月に複数のCAD/CAM冠装着すると1枚のレセプトで6~8行の記載となる場合があり、手書きレセプトの場合の事務負担は過酷である。個人的にこれを単純化するなら「6、7番にCAD/CAM冠を適用する場合は対合歯とのクリアランスが十分あり、支台歯の歯冠長が確保できるもの」だけで良いと思う。悪名高いクラウン・ブリッジ維持管理料の2年間は再製作の費用を医院が負担する縛りもあるので、従前の要件を満たしたとしてもクリアランスが十分取れないCAD/CAM冠の製作には抵抗がある。
低医療費政策の転換とともに、複雑怪奇な診療報酬をシンプルにしていく運動が必要だと改めて思う。