論壇
職員の賃上げは基本診療料の底上げと、医療機関の裁量で
春日部市 渡部 義弘
Ⅰ.はじめに
2024年度診療報酬改定において、使途限定の「ベースアップ(以下ベアと略)評価料」が登場した。例によって算定のための難解な事務処理に現場が少なからず困惑したことは記憶に新しい。極めて算定のハードルが高いと当初から指摘された通り、埼玉県においては2024年11月時点で、算定できている施設はベア評価料Ⅰで医科30.0%、歯科23.8%、Ⅱで医科2.9%、歯科1.2%に過ぎない。このような点数を含めて本体プラス改定とする財務省・厚労省の手法は笑止の沙汰と言わざるを得ない。改定の中に使途を限定した報酬を組み入れたことは診療報酬に政策誘導的要素を明確に導入してきた近年の経緯の中で、さらに一歩踏み込んだ新機軸といえる。今後定常化しないように監視が必要だ。
Ⅱ.2024年度の賃上げ動向
連合発表では平均賃上げ率は5.10%(ベアと定期昇給の合算、以下同様)であった。経団連発表に拠れば大手企業では5.58%、一方日本商工会議所に拠ると中小企業では3.62%と大きな差がみられた。中小企業の中でも業態別に見ると、運輸2.52%、医療・介護・看護業では2.19%と極めて低調だ。因みに厚労省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」(100人以上を雇用する会社組織の民営企業が対象なので、一般の診療所に関しては参考程度だが)に拠れば、2024年度は全産業で4.1%、対して医療福祉分野では2.5%とやはり低調には違いない。
Ⅲ.人材不足の深刻化が懸念される
もとより、医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除いた医療関係職種の月給は平均で全産業のそれを10%近く下回る(2023年12月8日の中医協)。ベアをアシストするポーズは見せる今回の改定では、結果的に他職種にさらに水をあけられる格好となった。低い賃金でも医療への熱い想いを持つ者もいない訳ではないが、金銭的待遇は職の選択において重視されることは間違いなく、人材不足どころかこのままでは人材流出が進行し、現有戦力で無理に回せばさらに脱落者が出るという負のスパイラルに落ち込むであろう。
Ⅳ.ベアは個別的状況を反映すべき
医療関係職種(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く)の低賃金は、20年以上にわたる診療報酬のネットマイナス改定の乱発にも原因を求めることができよう。この様な状況下で、ベア評価料によってベアを行うことができたとしても経営状況は厳しいまま変わらない。他業種並みのアップをすれば経営を圧迫する。さらにベア評価料対象外の施設では、一定のベアは厳しい経営をより強く圧迫する。広くあまねく医療関係職種のベアと医療機関の経営状況改善を両立するには診療報酬の「基本診療料」を大幅に底上げすることが理想的である。ただ、使途限定的でない診療報酬の底上げは、ベアに全く収入増を回さず、他目的へ運用しかねないという「性悪説」的懸念を呼び、今回の様な紐づけ改定に繋がったと思われる。
ところで、本来ベアは、各医療機関が自律的に行うべきものである。経営状況が厳しい施設においてはベアが致命傷になりかねない。人減らしやワンオペへの移行も起こりうる。十分な手当てがないにもかかわらず、同調圧力的に強制することは許されない。また直近話題の「●●万円の壁」により、ベアを望まない職員のいる施設もある。これらの施設において、ベア評価料は使えず、実質的診療報酬ダウンを甘受しなければならない。
今回のような手法は対外的に診療報酬プラスのイメージを植え付けつつ、実質的報酬ダウンを狙ったものであり、極めて悪質である。医療機関の健全な運営あってこそ、国民患者の医療アクセスを担保できるのである。そのためにも、「実質的」な診療報酬のアップを実現する「基本診療料」の大幅増を求める運動を粘り強く続けていこうではないか。
2024年度診療報酬改定において、使途限定の「ベースアップ(以下ベアと略)評価料」が登場した。例によって算定のための難解な事務処理に現場が少なからず困惑したことは記憶に新しい。極めて算定のハードルが高いと当初から指摘された通り、埼玉県においては2024年11月時点で、算定できている施設はベア評価料Ⅰで医科30.0%、歯科23.8%、Ⅱで医科2.9%、歯科1.2%に過ぎない。このような点数を含めて本体プラス改定とする財務省・厚労省の手法は笑止の沙汰と言わざるを得ない。改定の中に使途を限定した報酬を組み入れたことは診療報酬に政策誘導的要素を明確に導入してきた近年の経緯の中で、さらに一歩踏み込んだ新機軸といえる。今後定常化しないように監視が必要だ。
Ⅱ.2024年度の賃上げ動向
連合発表では平均賃上げ率は5.10%(ベアと定期昇給の合算、以下同様)であった。経団連発表に拠れば大手企業では5.58%、一方日本商工会議所に拠ると中小企業では3.62%と大きな差がみられた。中小企業の中でも業態別に見ると、運輸2.52%、医療・介護・看護業では2.19%と極めて低調だ。因みに厚労省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」(100人以上を雇用する会社組織の民営企業が対象なので、一般の診療所に関しては参考程度だが)に拠れば、2024年度は全産業で4.1%、対して医療福祉分野では2.5%とやはり低調には違いない。
Ⅲ.人材不足の深刻化が懸念される
もとより、医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除いた医療関係職種の月給は平均で全産業のそれを10%近く下回る(2023年12月8日の中医協)。ベアをアシストするポーズは見せる今回の改定では、結果的に他職種にさらに水をあけられる格好となった。低い賃金でも医療への熱い想いを持つ者もいない訳ではないが、金銭的待遇は職の選択において重視されることは間違いなく、人材不足どころかこのままでは人材流出が進行し、現有戦力で無理に回せばさらに脱落者が出るという負のスパイラルに落ち込むであろう。
Ⅳ.ベアは個別的状況を反映すべき
医療関係職種(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く)の低賃金は、20年以上にわたる診療報酬のネットマイナス改定の乱発にも原因を求めることができよう。この様な状況下で、ベア評価料によってベアを行うことができたとしても経営状況は厳しいまま変わらない。他業種並みのアップをすれば経営を圧迫する。さらにベア評価料対象外の施設では、一定のベアは厳しい経営をより強く圧迫する。広くあまねく医療関係職種のベアと医療機関の経営状況改善を両立するには診療報酬の「基本診療料」を大幅に底上げすることが理想的である。ただ、使途限定的でない診療報酬の底上げは、ベアに全く収入増を回さず、他目的へ運用しかねないという「性悪説」的懸念を呼び、今回の様な紐づけ改定に繋がったと思われる。
ところで、本来ベアは、各医療機関が自律的に行うべきものである。経営状況が厳しい施設においてはベアが致命傷になりかねない。人減らしやワンオペへの移行も起こりうる。十分な手当てがないにもかかわらず、同調圧力的に強制することは許されない。また直近話題の「●●万円の壁」により、ベアを望まない職員のいる施設もある。これらの施設において、ベア評価料は使えず、実質的診療報酬ダウンを甘受しなければならない。
今回のような手法は対外的に診療報酬プラスのイメージを植え付けつつ、実質的報酬ダウンを狙ったものであり、極めて悪質である。医療機関の健全な運営あってこそ、国民患者の医療アクセスを担保できるのである。そのためにも、「実質的」な診療報酬のアップを実現する「基本診療料」の大幅増を求める運動を粘り強く続けていこうではないか。