論壇

2024年診療報酬改定から半年 ~実現可能な施策を求める~

さいたま市 昼間 洋平
精神科での問題
 2024年の診療報酬改定で、精神保健指定医による通院精神療法(30分未満)が330点から315点に引き下げられた。要となる点数なので約5%の引き下げはかなり厳しいことである。代わりに「早期診療体制充実加算」「児童思春期支援指導加算」等の加算が新設された。これらは患者への医療提供の質を向上させることを目的としているが、届出に向け実際に半年間やってみて普通の精神科クリニックで算定するのは非常に困難だと痛感させられた。

早期診療体制充実加算
 急性期患者に迅速かつ適切な診療体制を提供することを評価する加算。要件として①24時間体制で受け入れ可能であること(電話対応でも可)、②急性期の精神科患者に対応できる医師やスタッフが配置されていること、③必要な設備が整備されていること等がある。しかし、精神科クリニックは通常、外来診療が主であり、24時間対応の体制を整えることは非常に難しい。急性期の精神疾患に対応するためには、追加のスタッフや設備を整える必要があり、多くのクリニックにとって、体制を整備するのは経済的に非常に厳しいところもある。2月3日付で埼玉県で届出をしている精神科クリニックは1件しかない。

児童思春期支援指導加算
 児童や思春期の患者に対して他職種が連携し特別な支援や指導を行うことを評価する加算。要件には①児童・思春期に特化した診療体制が整っていること、②発達障害や思春期特有の精神的問題に対応できる専門医やスタッフが配置されていること、③児童や思春期に適したカウンセリング環境が提供できること等がある。しかし、児童思春期に特化した専門医やスタッフがいないクリニックがほとんどで、治療プログラムや療法のスペースを整備することは非常に困難である。また保護者・各支援センターとの連携が不可欠であり、家庭訪問や親子カウンセリングを行うためには、さらに多くのリソースが必要となる。これらをクリニックが独自に整えるのは難しく、加算を算定するのは現実的に厳しい。現在、埼玉県で届出をしている精神科クリニックは1件しかない。

情報通信機器を用いた通院精神療法
 「情報通信機器を用いた通院精神療法に係る指針」に沿った診療および処方を行う必要がある。詳しい要件は指針をご確認いただきたい。オンライン診療の導入には、プライバシーを守るためのセキュリティ対策や、医療データを適切に管理するシステムが必要である。これには高額な初期投資が求められ、特に小規模なクリニックにとっては大きな負担となる。また、患者側にも十分なインターネット環境や機器が必要であり、高齢者やインターネットに不安のある患者にはオンライン診療が難しいことが多い。
 精神科救急医療体制の確保も大きな課題となる。オンライン診療では、急性期の患者に迅速に対応することが難しいため、緊急時に患者を専門的な医療機関に紹介できる体制が必要となる。オンライン診療と他の医療機関との連携が重要であり、体制を整えるには時間とコストがかかってしまう。県内の精神科クリニックでは4件しか届出していない。

終わりに
 以上から2024年の診療報酬改定により新設された加算は、患者にとっては有益だが、多くの精神科クリニックにとっては算定が難しい。特に、急性期の患者対応や児童・思春期特有の診療体制、オンライン診療システムの導入は、大きな負担となる。また、精神科救急医療体制の確保や高度な診療設備、専門医の配置など、多くのリソースを必要とするため、相当な準備が求められる。
 クリニックを支援する実現可能な施策を求めたい。

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