論壇
高額療養費限度額引き上げ見送り
慢性疾患療養の自己負担額を月1万円以下に
久喜市 青木 博美
当事者抜きの決定に問題
世論、患者団体の声に押されて「高額療養費限度額引き上げ」は見送りとなりました。政府としては何とか通そうとしたかったのでしょうが、石破首相が抗しきれなかったというところでしょうか。ここに至るまでの決定の過程には大きな問題があります。国民の声、中でも高額療養費限度額引き上げの影響を最も受ける患者団体の声を全く聞かずに、2カ月程度で決定してしまっていることです。今後の決定に当たっては広く意見を聞くことが必須です。
高額療養費制度の歴史
医療保険制度の歴史を、厚生労働白書(19)では3つの時代に区分しています。①国民皆保険制度確立の時代(概ね1922年~1961年まで)、②保険給付等の拡充の時代(概ね1961年~1973年まで)、③医療費の増大に対応するための給付と負担の見直しの時代(概ね1973年以降)。高額療養費制度の創設は1973年、時代区分②保険給付等の拡充の時代の終わり頃です。
この年は既にほとんどの県で老人医療無料化となっていたこともあり、老人医療費支給制度が創設された年でもあります。この時の限度額は3万円でした。還付方式でしたが、2007年に現物給付化されました。現在の自己負担額は69歳以下で3万5,400円~約25万2,600円、70歳以上で8,000円~約25万2,600円となっており、年収により細分化されています。
治療薬は高額化
治療は進歩し治療成績が良くなってきています。日常外来で診る慢性疾患でもそうです。関節リウマチに対する生物学的製剤、JAK阻害薬、潰瘍性大腸炎、クローン病など炎症性腸疾患に対する生物学的製剤、気管支喘息、慢性難治性蕁麻疹に対する生物学的製剤、片頭痛に対するCGRP関連抗体薬等々。効果は良いけれど値段は高い。
薬剤が高いため治療を断念する場合もあります。治療する側としては何とかならないかなと思ってしまいます。治療したいがお金がないから治療できない。こんなことが起こらないように作られたのが現在の国民皆保険制度のはずです。
長期療養が必要な慢性疾患の場合 月額自己負担額は1万円に
どの位なら毎月、医療費として支出できるでしょうか。1万円でしょうか、5万円でしょうか、10万円でしょうか。現在の制度では年収400万円の場合、1月の自己負担限度額は8万100円+(医療費マイナス26万7,000円)×1%となっています。毎月8万円+α、もっと限度額を下げて欲しいと思うのではないでしょうか。
高額療養費制度には特例措置があります。非常に高額な治療を長期間にわたって継続しなければならない患者については、原則として負担の上限額は月額1万円(一定所得以上では2万円)とされています。血友病、人工透析およびHIVなどが対象疾患となっています。長期に継続して治療を行う場合、月額1万円以上(人口透析の場合、一定所得以上は2万円)は補助しようという考えです。現在では血友病、人工透析、HIVに限らず、長期に治療を行う慢性疾患に適応すべきではないでしょうか。
世論、患者団体の声に押されて「高額療養費限度額引き上げ」は見送りとなりました。政府としては何とか通そうとしたかったのでしょうが、石破首相が抗しきれなかったというところでしょうか。ここに至るまでの決定の過程には大きな問題があります。国民の声、中でも高額療養費限度額引き上げの影響を最も受ける患者団体の声を全く聞かずに、2カ月程度で決定してしまっていることです。今後の決定に当たっては広く意見を聞くことが必須です。
高額療養費制度の歴史
医療保険制度の歴史を、厚生労働白書(19)では3つの時代に区分しています。①国民皆保険制度確立の時代(概ね1922年~1961年まで)、②保険給付等の拡充の時代(概ね1961年~1973年まで)、③医療費の増大に対応するための給付と負担の見直しの時代(概ね1973年以降)。高額療養費制度の創設は1973年、時代区分②保険給付等の拡充の時代の終わり頃です。
この年は既にほとんどの県で老人医療無料化となっていたこともあり、老人医療費支給制度が創設された年でもあります。この時の限度額は3万円でした。還付方式でしたが、2007年に現物給付化されました。現在の自己負担額は69歳以下で3万5,400円~約25万2,600円、70歳以上で8,000円~約25万2,600円となっており、年収により細分化されています。
治療薬は高額化
治療は進歩し治療成績が良くなってきています。日常外来で診る慢性疾患でもそうです。関節リウマチに対する生物学的製剤、JAK阻害薬、潰瘍性大腸炎、クローン病など炎症性腸疾患に対する生物学的製剤、気管支喘息、慢性難治性蕁麻疹に対する生物学的製剤、片頭痛に対するCGRP関連抗体薬等々。効果は良いけれど値段は高い。
薬剤が高いため治療を断念する場合もあります。治療する側としては何とかならないかなと思ってしまいます。治療したいがお金がないから治療できない。こんなことが起こらないように作られたのが現在の国民皆保険制度のはずです。
長期療養が必要な慢性疾患の場合 月額自己負担額は1万円に
どの位なら毎月、医療費として支出できるでしょうか。1万円でしょうか、5万円でしょうか、10万円でしょうか。現在の制度では年収400万円の場合、1月の自己負担限度額は8万100円+(医療費マイナス26万7,000円)×1%となっています。毎月8万円+α、もっと限度額を下げて欲しいと思うのではないでしょうか。
高額療養費制度には特例措置があります。非常に高額な治療を長期間にわたって継続しなければならない患者については、原則として負担の上限額は月額1万円(一定所得以上では2万円)とされています。血友病、人工透析およびHIVなどが対象疾患となっています。長期に継続して治療を行う場合、月額1万円以上(人口透析の場合、一定所得以上は2万円)は補助しようという考えです。現在では血友病、人工透析、HIVに限らず、長期に治療を行う慢性疾患に適応すべきではないでしょうか。