論壇

災害直後の通信手段の確保を

三郷市 土田 昌巳
 2024年1月1日に発生した石川県能登地方を震源とするマグニチュード(M)7.6、最大震度7の「令和6年能登半島地震」。石川県の志賀町および輪島市で震度7を観測したほか、能登地方の広い範囲で震度6以上の揺れを観測。死者549人(災害関連死含む)、負傷者1,393人、住家被害は全壊6,483棟、半壊23,458棟、それ以外に浸水や一部破損等133,783棟の被害が報告されている。
 地震による傷も癒えない9月21日には台風14号から変わった温帯低気圧および活発な秋雨前線や線状降水帯などの影響で、輪島市輪島で24時間降水量が412.0㎜を観測するという記録的豪雨「奥能登豪雨」が発生した。死者16人、負傷者47人、住家被害は全壊41棟、半壊354棟、浸水や一部破損等1,172棟の被害(2024年10月25日時点)。
 能登半島地震では、避難所数4、避難者数11人。断水は最大で136,440戸であったが全て解消。電気・ガス・固定電話・携帯電話も回復しているという(2025年3月11日)。2025年1月23日の馳浩石川県知事会見では「被災者の立場なら復旧は100%遅れている」と述べる等、復興が進んでいない様子が苛立となって感じられる。
 2025年3月9日に開催された石川県保険医協会創立50周年記念シンポジウム「能登半島地震と住み続ける権利」に参加した。基調報告は井上英夫氏(金沢大学名誉教授)。パネリストは瀬島照弘氏(小木クリニック院長)、廣江雄幸氏(広江歯科院長)、斉藤典才氏(城北病院副院長)。特別報告に島中公志氏(公立穴水総合病院院長)。廣江氏は地震により歯科診療所の建物が壊れ、別の場所に新しく診療所を建て始めた時に奥能登豪雨により床上浸水の被害に遭われたという。震災の傷から立ち上がり、新診療所建設の喜びから一転して、水浸しになった診療機器の写真を見た時は暗澹たる気持ちになった。地震だけではなく、豪雨災害もあった「二重被災」ということを忘れてはいけない。幸い廣江氏の診療所は12月2日に無事オープンの運びとなり、こちらもホッと胸を撫で下ろした。
 公立病院の院長をされている島中氏は地震直後の様子を詳細に報告してくれた。能登半島地震の志賀町では最大加速度2,826(Gal)を記録。地球上の重力(1G)は980ガルなので、約3G(地球の重力加速度の3倍)の力がかかったことになる。ジェットコースターでフワッと体が浮く様な体験をしたことがあると思うが、それに近い。立っていることは困難である。築43年の病院建物のあちこちにトラブルが起こり断水・電話不通など。その中で幸いだったのは停電にならなかったこと。普段は消しておく部屋の照明を灯して、地域の方々の正に希望の光となった。「辺りは真っ暗だが、病院の灯りが見えたので安心した」という。
 島中氏の話では地震直後は通話可能だったA社の携帯電話は暫くしてダウン。カバー率が高いと言われているD社は最初から繋がらなかった。通信手段がなくなった病院には救急車が4台も集まるなど混乱の極み。行政の衛星電話を借りて事態を収拾したという。そして、携帯電話が再び繋がるようになったのは地震から3日後だった。
 この話を聞いた時にロシアの攻撃で通信インフラが破壊されたウクライナに提供されたスペースX社のスターリンクを思い浮かべた。スターリンクは衛星インターネットサービスで低軌道上に多数の衛星を配置し、地球上のほぼ全域でインターネット接続を可能にする。日本でも利用可能で専用アンテナとルーターがあれば通信可能になる。
 「72時間の壁」という言葉をよく耳にする。阪神・淡路大震災において、救出者中の生存者の割合が発生から3日を境に急減したことから使われるようになった。被災して携帯電話を持っていても通信できなければ救助を要請することができない。災害直後に3日間、誰でもアクセスできるフリーWi-Fiを確保できれば地震が多発する日本で大きな力になると思う。

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