論壇

個別指導対策とはなにか

上尾市 小橋 一成
 個別指導対策については、多くの開業医から「一体どう備えるべきか」との質問を受ける。忘れてはならないのは、個別指導とは本来、保険医に対して保険診療のルールを周知する教育が目的で設けられた行政指導という点である。すなわち、我々が徹底すべきは、診療報酬の算定要件を理解し、そのルールに則って日常診療を行うこと。そして、患者とのやりとりを含め、事実関係をカルテに記載すること。決して不正や不当な医療行為を行わないことが重要であり、これを犯せば正当な医療を主張することができなくなる。
 カルテの充実は、個別指導という狭い範囲に限らず、最近頻繁に行われている患者からのカルテ開示請求や医療訴訟に対しても有効であり、自らの医療を守るものである。
 まず、集団的個別指導と個別指導の違いを確認する。集団的個別指導とは講習会形式の指導であり、支払基金および国保連合会のデータを基に診療所ごとの1件当たりの平均点数を算出し、診療科別に高点数順で並べ、その上位8%を対象として選定される。自院の平均点数は、厚生局に問い合わせることで確認が可能である。
 集団的個別指導に選定され、翌年度もさらに上位4%以内に入った場合には、高点数を理由とした個別指導の対象となる仕組みだ。厚労省は「高点数の医療機関を狙い撃ちするものではない」と説明しているが、現場の医師からすれば、実質的に萎縮医療を促す強制力を持つものであり、協会は廃止を求めて運動してきた。
 個別指導には2種類ある。第1は新規個別指導。新規開業して6カ月が経過した医療機関や管理者の変更に伴い廃止・開設手続きを行った医療機関が対象である。あらかじめ10件ほどの患者が指定され、2カ月分のレセプトに基づいてカルテの記載内容を中心に指導が1時間行われる。
 第2は情報等による個別指導であり、①基金・国保連、保険者、被保険者などから診療内容や請求に関する情報提供があった場合、②過去の個別指導で再指導となった場合、③高点数により集団的個別指導に選定され、翌年度も上位4%以内に入った場合などが該当する。特に元職員からの情報提供は具体性と信頼性が高いとされ、選定理由となることが多い。対象患者は新規指導よりも多い30件、指導時間も2時間である。
 開業保険医にとって個別指導の場は、多勢に無勢の印象を与える。保険医である医師1人に対し、厚生局側は指導医療官(医師、歯科医師)、厚生局が委嘱した指導医、厚生局および県の職員、そして立会人が加わり、計3~5人が出席するのが一般的である。この構図だけで相当な圧迫感を受けるのである。
 埼玉県保険医協会は、長年の運動を通じて保険医の人権を守るための制度改善を実現してきた。その代表例が弁護士帯同である。これにより、すべての個別指導において弁護士の同席が認められている。法律に基づいて行われる行政指導において、医師が1人で対応するのではなく、法的な知識と交渉力を持つ弁護士が同席することは、保険医にとって極めて大きな支えとなる。法治国家において、保険医の権利を守ることは当然のことであり、個別指導を受ける際には弁護士を帯同するべきである。
 結局のところ、個別指導対策とは、第1に保険診療のルールを正しく理解し、日常の診療記録や請求を適正に行うこと。第2に、指導の場において医学的妥当性を説明できる記録を備えておくこと。そして第3に、圧力的な指導に対しても冷静に臨むため、弁護士帯同を活用することである。これらを実践してこそ、保険医の権利を守り、地域医療を正しく支えることができるのである。

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