声明・談話

【埼玉県保険医協会 理事会声明】
保険証の廃止を目前にして
保険証を復活させ、マイナ保険証との併走を

2025年11月26日
埼玉県保険医協会理事会
 厚労省は、11月12日付けで事務連絡「マイナ保険証を基本とする仕組みへの移行について(周知)」を医療関係団体に向けて発出しました。
 医療機関に対し「期限切れの保険証」や「資格情報のお知らせ」単体により資格確認を行い、10割でなく3割(場合によっては2割)を患者から受領するよう求める事務連絡は、今年の夏にも、厚労省が自治体国保や後期高齢者の保険証の有効期限切れとなった際に散発的に出していたものです。
 多くの国民の保険証が廃止される12月1日のタイミングで期限切れの保険証を使用可能とするなどの扱いを示したことについては「やはりそうなったか」という見方も多く、驚きは少ないものです。現状を鑑みれば当然のことですが、保険診療における資格確認実務は、保険証抜きには成立しないことを厚労省も認めている点は重要です。しかし、厚労大臣や厚労省は事務連絡を発出するのみでなく、国会に対し法令の定めにより保険証廃止を実施すれば、国民皆保険が適切に運営できなくなるという現状を報告するべきでしょう。また、医療機関のみの周知に留めていることも異常です。厚労省には広く国民に対して周知することを求めます。
 国会は今度の事務連絡を追認するのではなく、国民皆保険を堅持する視点から保険証廃止の妥当性を真剣に審議するべきです。保険証の廃止法が2023年6月に成立してから2年超が経過し、まもなく12月1日をもって保険証は廃止することになっていましたが出来ないことを認める時です。
 私たちは、次の5点を指摘するとともに、保険証を廃止する12月1日以降の扱いを事務連絡という責任の所在を曖昧にしてお茶を濁すのではなく、国会が責任をもって審議し、当面は、保険証を復活させ、マイナ保険証と併走・併用させることを求めるものです。医療機関や患者を混乱に巻き込むことなく、ひいては将来に対して国民皆保険制度を守ることにもなります。

1 医療機関への丸投げによる解決

 有効期限が切れた保険証の提示によって保険診療を受診できるというルールは、法令上に存在しません。厚労省は本事務連絡の主旨を患者には周知しないとしていますが、医療機関側に一方的に超法規的措置を求めています。このような事態は、これまで厚労省や国会与党が保険証の問題に真摯に向き合ってこなかったことに起因するものです。資格確認実務を担う開業医からは昨年以前から「保険証は存続」「廃止は時期尚早」の声が多数出されてきました。多くの混乱発生が懸念されていることは、本会や他県の保険医協会、全国保険医団体連合会から再三に亘り指摘をしてきたところです。様々な現場当事者・関係者の要望や声を無視してきた経過のうえに現在があります。
 この間の後手後手の対処策が、資格確認ツールや説明事項の増加を招き、その結果として医療現場における資格確認実務の負担が増え、難儀になっています。

2 これからの資格確認方法の周知不足 マイナ保険証PRに傾きすぎ

 事務連絡を発出せざるを得ない最大の理由は、国民や患者に、保険証廃止後の資格確認方法や、資格確認書の存在や切替え時期、交付対象や交付方法などがこれまで周知徹底できていないことにあります。それなりに広報は増やされているものの、全ての国民を対象とした広報としては全く不足しています。「マイナポイント」にて、マイナカードやマイナ保険証の取得を促したことと比較すれば明らかです。
 そして、政府の広報はマイナ保険証のPRに重きを置きすぎです。保険証を廃止しながら、代わりの証書やマイナ保険証の更新手続などの詳細な周知を怠ってきた政府に問題があることを指摘せざるを得ません。保険証が60年にわたって全国民に届けられてきた先人の努力に敬意を払わず軽率に廃止を発案した過去の大臣らの不見識さにはさらに大きな問題があることは言うまでもありません。

3 資格確認実務はどんどんと困難に 「なりすまし防止」はどこへ

 厚労省は本事務連絡の発出と同時に「マイナ保険証を基本とする仕組みへの移行に向けた準備セミナー」なるものの開催を医療機関に周知し、11月20日から動画配信を開始しています。
 主な内容は、12月以降は「マイナ保険証」+「資格確認書」になるという説明であり、マイナ保険証やカードリーダーに不具合がある場合の患者への対応方法、レセプトの請求方法など、多様な代替方途や手順が示されています。患者の保険資格確認というシンプルな実務にも関わらず、全国の医療機関が動画配信を受講しなければならないほどに、実務は著しく困難になってしまっています。こうした状況を生じさせているのが、「保険証の廃止」と「マイナ保険証の強制利用」という政府の方針です。
 マイナ保険証の「期限切れ」も多数生じており、本会の今年8月~9月時の会員調査では1年前の頃から2倍に増えています。今後も増えることが見込まれますが、バックアップとして保険証が必ず交付されていたこれまでと異なり、マイナ保険証の期限切れ後に資格確認書が確実に交付できているかは各保険者に委ねられているのみで、実態は厚労省も把握していません。
 また、マイナ保険証を推奨する方針の理由として政府はこれまで「なりすまし受診の防止」「保険証の不正利用防止」を掲げていました。しかし、現状では、不具合があった際には、患者がA4用紙にプリントしたものや、スマホにダウンロードしたものでも利用可能と認めています。医療機関の窓口では本物かどうか見極めることができないツールを採用するという事態になっています。保険証を廃止せずに、カードリーダーの不具合・エラー時には、保険証を提示してきたこれまでの方法が、もっとも確実な資格確認方法であったはずです。ここに立ち返るべきです。

4 療担を自ら形骸化する無責任・曖昧な厚労省-国会は保険証復活の審議を

 11月12日に発出された事務連絡は、厚労省の介護医療連携推進課長によるものですが、そもそも患者の資格確認を規定しているのは、健康保険法や保険医療機関療養担当規則(以下、療担)という厚労省令です。
 保険診療に携わる保険医療機関にとって療担は、大変重要な規則で、違反があった場合には保険医療機関の停止もありえるものです。この療担に規定されている資格確認の方法の変更を認める事務連絡を介護医療連携推進課長が発出していることが、責任の所在を曖昧にしています。結果として、本事務連絡に規定していることは各医療機関の判断で対応してよいことにもなっています。
 事務連絡発出の翌日に社会保障審議会医療保険部会が開催されていますが、厚労省が用意した結論を審議会が追認しているにすぎません。この審議会は、2025年春、高額療養費の審議でも厚労省の提案を真摯に検討せずに追認をしていたことが判明し各方面から批判を受けた機関でした。
 多くの患者、国民、そして保険医療機関は蚊帳の外におかれながら、おかしなルールを次々に運用していくことになれば、資格確認実務はどんどんと歪められていきます。本当に保険証を廃止していて良いのか、保険証を廃止させなければならないのか、国会と国会議員には、行政を監視しつつ、状況に対応するルールづくりを改めて審議することを求めます。

5 国民皆保険を守るために保険証との併走・併用を

 60数年前、皆保険の創設時に関係者は、加入者・世帯主から保険料を受領するために、国民皆保険の理念や仕組みを繰り返し説明・説得を試み、年月を要して皆保険制度として成立させてきました。医療機関もルールに則って対応をしてきました。
 先人達の開拓とその後の制度の維持に多くの努力がかけられて皆保険制度は定着し発展してきました。しかしながらマイナ保険証の強要政策により制度の根幹である、資格確認の方法が、これほどまでに複雑、不安定になっています。
 マイナ保険証は使用したい方が使用し、保険証を使用したい方に保険証を使用することを認め、一定期間「併走」「併用」とすれば、問題は収束します。
 政府と与党はこれまでの拙速な進め方と周知不足を認めて、早急に保険証を復活させてください。
以上
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■ 11月12日付け事務連絡「マイナ保険証を基本とする仕組みへの移行について(周知)」はこちらから PDF

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