論壇
骨太方針が加速させる費用対効果評価の導入と無価値医療の抑制
川口市 石津 英喜
日本の国民皆保険制度は、高い医療アクセスと質を維持してきた一方で、医療技術の高度化・高額医薬品の増加・人口減少による保険財政の縮小に直面している。こうした中、政府の「骨太方針」は、費用対効果評価の導入と無価値医療の抑制を強く後押ししている。骨太方針に示された方向性は、中医協や厚生労働省の制度設計に反映され、数年単位で政策化される。国民皆保険制度は今後「必要な医療を広く保障する制度」から「限られた財源を価値の高い医療に重点配分する制度」へと転換を迫られている。
「無価値医療」とは、科学的根拠が乏しく患者の状態や治療目的に照らして予後や生活の質の改善が期待しにくいにもかかわらず、医療資源を消費する医療行為を指す。風邪症状への抗生物質投与、効果の乏しい薬剤の漫然投与、過剰な検査、重複受診などが典型である。終末期において本人の希望しない延命医療も検討の対象となるだろう。これらは患者や家族の「検査や治療をしてほしい」という期待、医療者側の防衛的診療、出来高払いを中心とする報酬体系などによって温存されてきた。しかし、患者のアウトカムは改善せず、医療費を押し上げる点で、制度の見直しは避けられない。
高額医薬品の不適正使用も、無価値医療の一形態となり得る。免疫チェックポイント阻害薬や最近の遺伝子治療などは、特定の患者には大きな効果を示す一方で、年間数百万円から数千万円に達する費用が必要となる。効果が限定的な患者に漫然と投与すれば、費用に見合う改善が得られず結果的には価値の低い医療となる。国民皆保険制度は「誰もが必要な医療を受けられる」ことを理念とするが、財源が有限である以上、すべての医療を無条件に給付することはできない。社会保障費抑制や制度改革を重視する政治的圧力も加わり、費用対効果評価を制度の中心に据え、医療資源の節約を図る動きは急速に強まっている。
具体的には、骨太方針は「費用対効果評価の活用」「医薬品・医療機器の経済性を踏まえた保険適用」「低価値・無価値医療の抑制」を掲げている。これまでも中医協では、高額医薬品を中心にICER(増分費用効果比)を用いた薬価調整が行われてきた。ICERは、健康寿命を1年延ばすために追加で必要となる費用を示す指標であり、国内では1つの目安として500万円/QALYなどの水準が参照されてきた。今後はスピードを増して効果に応じた薬価調整が進むだろう。医薬品だけでなく、医療機器、手術、検査にも評価対象が広がる可能性が高い。例えばロボット手術は優れた技術であり保険点数も従来より高く設定されてはいるが、高額な固定費・保守費用・消耗品費が必要であり、費用対効果は決して良いとはいえない。「高額な医療技術を使うこと」よりも、今後の情勢を踏まえると経済性の方が重要視されるだろう。
費用対効果評価と無価値医療の抑制は、医療機関や医師の行動にも影響を与える。保険者の点検機能が強化され、医師の裁量に委ねられていた領域を、保険者が管理する方向へ進みかねない。医療機関間での偏りがあれば、指導の強化や、費用の削減を求められる事態をまねきかねず敏感に対応することになるだろう。医師は患者に対して治療効果だけでなく費用対効果も含めた説明責任を負うようになり、医療の質と制度持続性の両立が求められる。さらに、ガイドライン遵守や検査適正化が診療報酬で評価される方向性が強まり、無価値医療の削減は臨床現場の実践課題となっていく。意味のない治療はレセプトで査定され、値段に効果が見合わない治療の継続は経営を圧迫しかねない。価値に基づく医療(Value-Based Healthcare)が「新しい医療の物差し」として、日常診療に浸透せざるを得ないであろう。
「無価値医療」とは、科学的根拠が乏しく患者の状態や治療目的に照らして予後や生活の質の改善が期待しにくいにもかかわらず、医療資源を消費する医療行為を指す。風邪症状への抗生物質投与、効果の乏しい薬剤の漫然投与、過剰な検査、重複受診などが典型である。終末期において本人の希望しない延命医療も検討の対象となるだろう。これらは患者や家族の「検査や治療をしてほしい」という期待、医療者側の防衛的診療、出来高払いを中心とする報酬体系などによって温存されてきた。しかし、患者のアウトカムは改善せず、医療費を押し上げる点で、制度の見直しは避けられない。
高額医薬品の不適正使用も、無価値医療の一形態となり得る。免疫チェックポイント阻害薬や最近の遺伝子治療などは、特定の患者には大きな効果を示す一方で、年間数百万円から数千万円に達する費用が必要となる。効果が限定的な患者に漫然と投与すれば、費用に見合う改善が得られず結果的には価値の低い医療となる。国民皆保険制度は「誰もが必要な医療を受けられる」ことを理念とするが、財源が有限である以上、すべての医療を無条件に給付することはできない。社会保障費抑制や制度改革を重視する政治的圧力も加わり、費用対効果評価を制度の中心に据え、医療資源の節約を図る動きは急速に強まっている。
具体的には、骨太方針は「費用対効果評価の活用」「医薬品・医療機器の経済性を踏まえた保険適用」「低価値・無価値医療の抑制」を掲げている。これまでも中医協では、高額医薬品を中心にICER(増分費用効果比)を用いた薬価調整が行われてきた。ICERは、健康寿命を1年延ばすために追加で必要となる費用を示す指標であり、国内では1つの目安として500万円/QALYなどの水準が参照されてきた。今後はスピードを増して効果に応じた薬価調整が進むだろう。医薬品だけでなく、医療機器、手術、検査にも評価対象が広がる可能性が高い。例えばロボット手術は優れた技術であり保険点数も従来より高く設定されてはいるが、高額な固定費・保守費用・消耗品費が必要であり、費用対効果は決して良いとはいえない。「高額な医療技術を使うこと」よりも、今後の情勢を踏まえると経済性の方が重要視されるだろう。
費用対効果評価と無価値医療の抑制は、医療機関や医師の行動にも影響を与える。保険者の点検機能が強化され、医師の裁量に委ねられていた領域を、保険者が管理する方向へ進みかねない。医療機関間での偏りがあれば、指導の強化や、費用の削減を求められる事態をまねきかねず敏感に対応することになるだろう。医師は患者に対して治療効果だけでなく費用対効果も含めた説明責任を負うようになり、医療の質と制度持続性の両立が求められる。さらに、ガイドライン遵守や検査適正化が診療報酬で評価される方向性が強まり、無価値医療の削減は臨床現場の実践課題となっていく。意味のない治療はレセプトで査定され、値段に効果が見合わない治療の継続は経営を圧迫しかねない。価値に基づく医療(Value-Based Healthcare)が「新しい医療の物差し」として、日常診療に浸透せざるを得ないであろう。